任天堂、再び苦境の兆候…剥がれた「スイッチ効果」、ハード&ソフトが同時販売減

 その一方で、任天堂を取り巻く事業環境は急激に変化している。例えば、世界のIT先端分野では一定の料金を支払い続けることによってサービスを利用し続けるサブスクリプション型のビジネスモデルが行き詰まり始めている。その一方で、米国のグーグルやアマゾン、マイクロソフトはクラウド・コンピューティングの需要をより効率的に取り込むために、ビジネスモデルの変革を加速させようとしている。

 そうした変化を成長のチャンスにつなげるためには、新しい発想が必要だ。一つの取り組み案として、任天堂にはこれまで以上にソフトウェア開発に集中する発想があってよい。やや長めの目線で考えると、世界のネット業界は個々人がブロックチェーンで自らのデータをより能動的に管理するウェブ3.0の世界に向かう。ウェブ3.0の時代が到来すると、わたしたちは常時ネット空間とつながる。

 その際、個々人の分身であるアバターがネット空間で多種多様な人と交流する。ゲームの世界と日常の生活の融合は加速するだろう。新しい楽しさの創造に一段と集中することによって、任天堂がクラウド時代のゲーム・コンテンツの創出面で世界的な競争力を発揮することはできるはずだ。

任天堂に求められる発想の転換

 それは、ウェブ3.0の時代を構成する一つの要素であるメタバースの分野で、任天堂が成長を実現する大きな足掛かりになる可能性を秘めている。その一方で、ハードウェアの開発に関しては他の企業との協業がさらに強化されるとよいだろう。具体的に想定されるのは、スマートフォンやパソコンなどを手掛ける企業とのアライアンスを強化しエンターテイメント関連の機能の強化を図ることだ。それによって任天堂は、スーパーマリオなどを生み出したソフトウェア創出力の強化に一段と集中できるだろう。

 また、任天堂と共働する企業は、任天堂がどのようにして消費者のスイートスポットを突くゲーム機を生み出してきたかを学ぶことができるようになるはずだ。IT先端分野を中心に企業の競争は激化する。それによってヒット商品のライフサイクルは短期化する可能性が高い。企業が生き残り、持続的に高い成長を目指すためにはいかにウィン・ウィンの関係を強化することができるかが決定的に重要になるだろう。

 任天堂は、発想の転換を目指すべき時を迎えている。任天堂は花札メーカーとして創業し、その後はプラスチック製のトランプメーカーに転身を果たした。さらに、テレビゲームメーカーへ業態を転換することによって任天堂は高い成長を実現した。

 その後の事業運営の歴史を確認すると、任天堂はゲーム機がヒットすると業績が拡大するが、ヒットが一巡すると業績が伸び悩むという展開を繰り返した。世界のゲーム業界ではIT先端企業によるモバイルゲームメーカーの買収が増加したり、スタートアップ企業による新規参入が増えたりするなど、競争が急速に激化している。そのなかで任天堂が強みを発揮するためには、強みを発揮できるソフトウェアの開発に集中する発想が一段と必要になるだろう。ニンテンドースイッチのヒットという成功体験に浸ることなく、同社の経営陣が新しいビジネスモデルの確立を目指す展開を期待したい。任天堂にはそうした変革を自ら実現する実力があるはずだ。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)