バッチ式は1時間当たりの処理枚数(スループット)が大きいが、洗浄で剥がれたパーティクルがウエハに再付着するという問題がある。一方、枚葉式はパーティクルの再付着の問題はないが、スループットが悪い。
以上の理由から、2007年まではスループット優先で、バッチ式が主流だった。ところが、2008年以降、バッチ式に替わって枚葉式が主流になってきた。この原因は次の通りである。
枚葉式のスループットを向上させるために、一つの洗浄装置のプラットフォームに洗浄槽を4槽、8槽、16槽、そして32槽と増やしていった。その結果、枚葉式のスループットがバッチ式を追い越してしまったのである。となると、パーティクルの再付着が起きるバッチ式を使う理由はない。このようにして、枚葉式が洗浄装置の主流になったのである。したがって、洗浄装置ビジネスとしては、枚葉式でどれだけシェアを占めることができるかということが重要になってくる。
図4に、枚葉式洗浄装置の出荷額と企業別シェアの推移を示す。2003年頃からスクリーンのシェアが急増していくが、洗浄装置にパラダイムシフトが起きた直後の2009年に、スクリーンのシェアは約70%でピークアウトした。その後、上下動しながらスクリーンのシェアは低下していき、2021年には最盛期の半分近い38%に落ち込んでいる。
一方、枚葉式が主力になった2008年以降、オーストリアの洗浄装置メーカーSEZを買収したLam、SEMES、TELの3社が熾烈な2位争いを展開している。2021年には、2位がTEL(23.8%)、3位がSEMES(19.5%)、4位がLam(14.2%)だった。このように、枚葉式洗浄装置ではスクリーンが世界シェア1位であるが、そのシェアは低下傾向にある。近い将来、TELやSEMESに追いつかれてもおかしくない状況にあるといえる。
スクリーンとSEMESは、洗浄装置以外にもレジストを塗布し現像するコータ・デベロッパを販売している。その出荷額と企業別シェアを見てみると、TELが断トツのトップシェアで、2021年は88.8%を独占した(図5)。
一方、スクリーンは1998年に最大20%のシェアを獲得したこともあったが、その後シェアはじり貧となり、2021年には2.6%まで低下してしまった。ところが、SEMESはスクリーンを抜き、2021年に8.1%のシェアを獲得している。コータ・デベロッパの世界市場は2020年に24億ドルだったが、2021年に約1.4倍の33億ドルに急拡大している。したがって、規模が大きくなっているコータ・デベロッパ市場で大きくシェアを落としたスクリーンと、シェアを向上させたSEMESで明暗が分かれることになったと考えられる。
2021年にSEMESがスクリーンを抜いて、装置の売上高ランキングで6位に躍進した。その理由を挙げてみると、次のようになる。
1)枚葉式洗浄装置では、スクリーンが2020年から2021年にかけてシェアを低下させる一方、SEMESは2019年から2021年にかけてシェアを増大させた。
2)コータ・デベロッパでは、スクリーンがシェアを低下させ続けている一方、SEMESは2019年以降シェアを増大させ、スクリーンを抜いた。
3)今回の分析では言及しなかったが、SEMESはドライエッチング装置でも売上高を増大させている。
2021年のSEMESの装置売上高は22.14億ドルで、7位のスクリーンの21.99憶ドルとは僅か1500万ドルしか差がない。したがって、2022年以降に再びスクリーンがSEMESを抜くことも考えられる。しかし、そのためにはジリ貧気味の枚葉式洗浄装置のシェアの低下を食い止める必要があるだろう。
一方、SEMESはスクリーンにはないドライエッチング装置のビジネスに参入している。現在SEMESのドライエッチング装置の売上高は、Lam、TEL、AMATの上位3社には遠く及ばない。しかし、SEMESの背後にはサムスン電子が控えている。もしSEMESがサムスン電子の要求に応える性能のドライエッチング装置を開発できれば、さらに大きく飛躍する可能性がある。
今後、枚葉式洗浄装置でスクリーンが巻き返すか、SEMESがさらに飛躍するのか、スクリーンとSEMESの装置売上高ランキング争いに注目していきたい。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)