ニッチ分野で世界シェア100%…レーザーテック、最強の検査装置メーカーの秘密

 半導体の微細化に関して世界のトップを突き進んだのが台湾積体電路製造(TSMC)だ。同社は世界に先駆けて回路線幅5ナノメートル(ナノは10億分の1)のチップの生産体制を確立し、韓国サムスン電子とのシェアの差を広げている。2016年ごろに米インテルは14ナノから10ナノへの移行につまずいた。インテルは最先端の製造技術をTSMCに頼らざるを得なくなった。TSMCの躍進を支えているのはEUVを用いた露光装置を世界で唯一供給する蘭ASMLなど、最先端の製造装置や部材メーカーとの関係強化だ。フォトマスクとマスクブランクスの検査に関してもEUVを用いた微細化に対応しなければならない。

 2000年代の初めごろから、レーザーテックはEUVが半導体の製造において重要な役割を担う展開を予想し、研究開発に取り組んだ。EUVの波長は13.5ナノメートルだ。波長が193ナノメートルであるフッ化アルゴンのエキシマレーザーよりも微細化に適している。ただし、EUVを用いた検査技術の実現は容易ではなかった。その一つとして、EUVは透過せずに物質に吸収されるという課題があった。

 事業環境面の不確定要素も増えた。1990年代以降、わが国は不良債権問題の深刻化や半導体産業の急速な競争力の低下に直面した。多くの日本の半導体製造装置メーカーは次世代の半導体製造、検査技術の実現を断念した。事業環境が不安定化する中でレーザーテックは研究開発を強化し、世界初の検査装置を供給し続けた。それは、新しい技術の創出をあきらめないという経営風土によるところが大きい。

中長期的なビジネスチャンスの増加期待

 日本の半導体メーカーが競争力を失った要因の一つとして、多くが総合電機メーカーなどの一部門だったことは大きい。1990年代以降、バブル崩壊が深刻化する中で電機メーカーは国際分業に対応することが難しく、テレビなどの市場でシェアを失った。それが半導体産業の凋落につながった。それとは対照的に、レーザーテックは独立系の半導体検査装置メーカーとして最新の製造技術を磨いた。同社は、主として最先端の研究開発や試作品の製造などに集中している。装置の生産は国内企業に委託(ファブライト経営)し、事業運営の効率性を高めた。それによってレーザーテックはマスクブランクスの欠陥検査装置分野で世界シェア100%を実現している。検査技術の研究開発に徹底して集中することがレーザーテックの成長の源泉といえる。

 今後、レーザーテックのビジネスチャンスは拡大するだろう。世界経済のデジタル化によって半導体の需要は増える。これまであまり半導体が用いられてこなかった分野での需要が急拡大している。その一つとして、自動車に搭載される半導体の点数が急速に増えている。家庭や生産の現場ではIoT=インターネット・オブ・スィングス関連の機器が導入される。

 具体的にはスマートスピーカーや監視カメラ、メタバース関連技術を用いた生産プロセスのバーチャル化などがある。それに加えて、微細化など新しい半導体製造技術の革新も加速する。TSMCは次々世代の2ナノレベルのチップの量産体制の確立を急ぐ。韓国のサムスン電子も微細化を急がなければならない。それがマスクブランクスやフォトマスクの検査需要を押し上げる。

 その一方で、米中の対立、中国のゼロコロナ政策、ウクライナ危機などによって世界全体でサプライチェーンが寸断されている。資源価格高騰と円安によって日本の交易条件は悪化するだろう。それはレーザーテックにとって大きな逆風だ。同社はサプライチェーンを強化してレンズなど資材の安定した調達体制を確立し、より精度の高い検査装置の開発を急がなければならない。そのために同社の経営陣がどのように国内外のサプライヤーとの協力体制を強化し、事業運営のスピードを引き上げるかが注目される。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)