世界全体での物価急騰が良品計画の事業運営に大きな負のインパクトを与えている。5月の国内売上高は前年同月の実績を上回るなど、動線修復に支えられて収益は徐々に上向いているが先行きは楽観できない。ウクライナ危機の発生などによって、世界経済の脱グローバル化が勢いづいた。エネルギー資源などの価格急騰は鮮明だ。良品計画はさらなるコストプッシュ圧力に直面するだろう。同社が事業運営体制を強化してきた中国では、経済が高度成長期から安定成長期へ曲がり角を曲がった。中国事業の業績拡大ペースが鈍化するなど、同社はより強い逆風に直面する恐れが増している。
良品計画は、新しい事業運営体制を確立しなければならない。そのために重要性が急速に高まっているのが、アセアン地域やインドでのシェア拡大だ。2022年8月期の上期決算では国内や中国事業が苦戦する状況下でも、タイとマレーシア事業が成長した。やや長めの目線で考えると、中国からアセアン各国やインドに流入する資本が増えるだろう。それは良品計画が長期の成長を目指す光明といえる。
2022年8月期の良品計画の上期決算は増収減益だった。営業収益は前年同期比107.1%の2,444億円だった。営業収益増加の主たる要因は国内外における出店の増加だ。それは無印良品のブランドが世界の消費者から強く支持されていることを示している。その一方で、営業利益は前年同期比80.6%の188億円だった。
営業利益が減少した原因の一つは、世界全体で急激に物価が上昇して事業運営コストが急増したことだ。中国のゼロコロナ政策によって生産活動は大きく停滞した。ゼロコロナ政策は世界的な物流網の混乱と停滞に拍車をかけた。さらに、ウクライナ危機が発生したことがコストプッシュ圧力を急激に強めた。サプライチェーンが寸断され、エネルギー資源や穀物などの価格が上昇した。
さらには、世界的に人手不足が深刻化し、賃金も増加基調だ。それに加えて、世界経済全体で需要が落ち込んだことも大きい。特に中国では上海など主要都市でロックダウンが実施され個人消費が急速に減少した。なお、中国では動線寸断によって既存店舗の売上が苦戦したものの、オンライン事業は相応の好調さを維持した。感染再拡大によって韓国事業も苦戦した。そうした負の要因が重なり、営業利益が減少した。特に、国内事業の営業利益は前年同期の59.7%と落ち込みが大きい。良品計画が消費者の支持を維持するために値下げを実行した結果、コストを吸収することが一段と難しくなった。
同社は正念場を迎えている。特に、コストの削減を徹底し、新しい商品をより多く生み出すビジネスモデルを確立することは急務だ。決算説明会資料には自社を取り巻く環境が急激に変化していることの危機感が明確に示された。経営陣は中国事業の売上見通しを引き下げ、通期の業績予想を下方修正した。それだけゼロコロナ政策への警戒感などが強い。
それに加えて、急速なコストプッシュ圧力の高まりへの危機感も明確に示され、店舗運営に必要な費用が削減される。また、良品計画は本部人員のプロ化、少数化を進め意思決定のスピードを引き上げようとしている。良品計画は事業運営の守りを固めようとしている。
他方で、事業環境の厳しさが増す中にあっても、良品計画は中長期の視点で成長を目指さなければならない。そのために注目されるのが、アセアン地域など中国以外のアジア新興国市場での事業運営だ。同社のアセアン事業は着実に成長を遂げている。上期にはタイで新規出店も行われた。昨年夏場のデルタ株の感染再拡大によって経済に大きな打撃がもたらされたアセアン地域の個人消費は堅調であり、それを良品計画は着実に取り込んでいる。先行きの不確定要素が増えるなかで良品計画がさらなる成長を目指すために、アセアン事業の成長加速は欠かせない。