インフレ抑制は景気に逆風?需要と供給だけじゃない?物価の基本知識

の画像1
日本銀行(「Wikipedia」より)

 このところ物価上昇が激しくなってきたことから、デフレが長く続いた日本でもインフレの関心が高まっている。物価というのは身近なテーマではあるが、実はよく分かっていない部分も多い。経済学でも、物価というのはそれほど突き詰めて研究されているわけではなく、多分に経験則的な扱いになっているのが実状である。物価上昇は当面続く可能性が高く、物価についての基本的なメカニズムについて知っておいて損はない。

需要と供給で価格は決まるというのが基本原則だが

 基本的にモノの値段というのは需要と供給で決まる。需要が増えたり、供給が制限されると物価が上昇するという話だが、需要拡大に伴う物価上昇のメカニズムについては、ある程度、直感的に理解できるのではないかと思う。ここでは商品を販売する小売店をモデルに考えてみよう。

 景気が拡大して店舗に並ぶ商品がたくさん売れるようになると、小売店はビジネスに対して強気になる。価格を上げても客足が落ちないと判断すれば、利益を最大化するため値上げを決断する可能性が高くなる。仮にその店が価格を据え置いた場合でも、店舗に商品を納入している卸が値上げを決断してしまえば、小売店はより高い価格で商品を仕入れなければならない。店舗側は利益の減少を防ぐため、やはり値上げを決断するだろう。

 景気が拡大している場合には、一連の動きが、あらゆる業界で発生するので、同時多発的に値上げが起こり、消費者物価指数は上昇していく。同様のメカニズムは、モノの市場(財・サービス市場)だけでなく、貨幣市場でも発生する。

 価格が上昇すると、同じ商品を仕入れるために必要なお金の額が増える。通常、仕入れは商品の販売より先行するので、企業は一定金額のキャッシュを運転資金として確保する必要がある。物価が上がると、運転資金の額が増えるので、一般的に銀行からの融資は増加することが多い。

 貨幣市場においては、貨幣の需要が過大になるので、銀行は収益を最大化するため、金利を引き上げる。金利の上昇は企業にとってはやはりコスト要因なので、さらに物価を引き上げる作用をもたらす。

 これまでの説明は景気の拡大で需要が増えるケースを想定しているが、原材料価格の高騰など、コスト的な要因でも似たようなメカニズムが働く。コストが上昇すると、企業はその分を価格に転嫁しなければ、従来の利益を維持できない。多くの製品が値上げされると予想される場合、企業は値上がりする前に製品を確保しようと試みるので、それが需要増となってさらに価格を引き上げてしまう。

 価格が上昇すると、経済活動の維持に必要なマネーの量が増えるので、やはり金利が上昇して、コスト増加に拍車がかかるという点も同じである。

インフレには貨幣の量が密接に関係している

 ここまでの話は貨幣の量が一定であると仮定したものだが、現実社会は異なる。金本位制ならいざ知らず、現在の通貨制度においては、中央銀行が貨幣の量を自由にコントロールできるので、貨幣の量は一定ではない。もし中央銀行が短期間に貨幣の量を2倍に増やした場合(例えば、日銀が紙幣を大量に刷って、現在の預金額と同額のお金を全国民にプレゼントしたと仮定する)、物価の量は単純に2倍になると予想される。

 一見すると自身の預金が2倍になったのでお金持ちになったように思えるが、経済の内実は何も変わっていないので、1個100円だったものが、単純に200円になるだけである。この話は、市場にどれだけの量の貨幣が流通しているのかで最終的な物価が決まるという仕組みであり、経済学的には「貨幣数量説」と呼ばれている。