米WTI原油先物価格は4月11日の取引で急落し、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった翌日の2月25日以来の安値となった。ウクライナ危機が長期化するとの見通しが高まっているのにもかかわらず、いわゆる「戦争プレミアム」が剥落してしまったかたちだ。
国際エネルギー機関(IEA)加盟国による過去最大規模の石油備蓄放出計画に加え、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界最大の原油輸入国である中国の需要が減少するとの懸念が相場への圧迫材料となった。都市封鎖(ロックダウン)となった中国最大の経済都市である上海市には軍や医療関係者が多数派遣され、全市民を対象に大規模な検査が実施されている。11日に発表された3月の新車販売台数も、前年に比べ12%減少するなど中国の経済活動の停滞ぶりが鮮明となり、「原油需要の縮小」が強く意識される展開となっている。
新型コロナの感染拡大で荷下ろしの時間が長くなっていることから、中国沖で待機中のタンカーが搭載している原油の総量が年初時点の1000万バレルから2200万バレルに大幅に増加する事態も起きている(4月7日付ブルームバーグ)。たしかに需要面で中国リスクが高まっているものの、世界の原油市場の供給不足の状態が大幅に改善したわけではない。
「経済制裁の影響でロシアからの原油輸出が最大で日量250万バレル減少する」との心配から先進諸国が増産の働きかけを続けているが、OPECとロシアなどの大産油国で構成されるOPECプラスは毎月40万バレルのペースで増産する方針を変えていない。他の産油国がロシアに代わって大幅増産すれば、OPECプラスの結束を揺るがすことになるとの配慮が働いている可能性があるが、生産能力に陰りが出ているOPECプラスがその要請に応じるだけの余裕がないというのが実情だろう。
米国がロシア産原油の禁輸を決定した3月上旬の時点で原油価格は1バレル=130ドルに達し、「年末までに1バレル=150ドル以上になるのは確実だ」と強気一辺倒だったが、その後、原油価格は急落し、再び130ドル超えになる勢いはない。
原油をはじめとする商品相場の乱高下が生じ、「読み」が外れた投家たちが多額のマージンコール(追加証拠金請求)を迫られたせいで取引から退場したことが関係している。市場参加者が減ったことで商品市場の流動性が急低下し、値動きが一段と荒くなっている。参加者が減った原油市場では、供給面の懸念よりも需要の減少に関する情報に敏感に反応するようになってきている。
2008年のリーマンショックの直前に高値を付けた原油価格がその直後に急落した前例にかんがみ、3月上旬をピークに原油価格が急落したのは「次に起きる金融危機の予兆ではないか」と筆者は危惧している。
想定している震源地は米国ではなく中国だ。恒大集団が昨年11月に経営危機に陥ったことで中国全土でマンションの買い控えが起き、不動産業界全体が資金繰りに問題を抱えるようになっているからだ。中国のGDPの3割を占めるとされる中国の不動産市場への政策的てこ入れがなされているが、今のところ改善の兆しは見えていない。
3月の不動産開発上位100社の新築住宅販売額は前年比53%減少し、今年に入って最大の落ち込みとなってしまった。不動産産業向け融資に積極的だった銀行も手のひら返しの状態だ。香港に上場する主要32行のうち17行が昨年の融資残高を減らしたが、今年も不動産業向けの厳しい姿勢は変わらないとの見方が強い(4月5日付日本経済新聞)。
海外での資金調達も絶望的な状況になっている。ドル建てジャンク債は50%近いデフォルト確率を織り込む水準で取引されており、財務体質が弱い不動産企業が発行する社債の買い手は見つからなくなっている(4月11日付ブルームバーグ)。