とはいえ、会社員の場合、60歳以降も職場に残ることが増えているので、厚生年金に加入できているなら対象者はかなり増えるのではないか。
なお、厚生年金に加入できる人自体が拡大する方向にある。週に20時間以上働き、収入が月額8.8万円以上等の条件を満たせば、パート・アルバイトでも社会保険に加入することになる「適用拡大」が始まっているが、現状では従業員501人以上の企業が対象だ。これが、2022年10月から従業員数101人以上の企業に変わる。2024年には、51人以上の企業まで広がる予定だ。
積極的に働く人が増えれば、厚生年金加入者も増加する。パートであっても長く勤めれば、iDeCoで私的年金を積み上げられる期間も増えるわけだ。
国が進めている年金改正は、つまりは高齢化社会に即したものといえるだろう。多くの現役世代は60歳で定年を迎えたとしても、年金受給までまだ5年もある。高年齢者雇用安定法により65歳までは職場で働き続けられる環境が整っているし、2021年の改正により70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされた。現役時代と同じ企業に勤め続けるだけでなく、先に書いたようにパートやアルバイトなどでがっつり働いて社会保険に加入し、その恩恵を受けることも可能だ。
よほど資産を積み上げた人でも、ただ切り崩すだけの生活が続くのは不安なものだ。わずかでも毎月決まった収入が得られる方がいいし、社会とのつながりを保つこともできる。働き方の選択もいろいろある。これまでのスキルを活かす仕事だけでなく、新しい職場で改めて学ぶこともあるだろう。定年後もなるべく長く働いて将来の年金額を増やし、年金を受け取り始める時期を遅らせる繰り下げで、さらに増やす。それが長生きリスクに備えることになりますよ、というのが、今後も続いていく年金の方向性だ。
公的年金は「共助」、つまり支え合う制度ともいえる。定年後も働いて厚生年金の保険料を払う人が増えれば、その分公的年金の支え手も増えることになる。60歳で仕事に一区切りをつけてからも、ずいぶん人生の先が長いのだ。お金のため、社会のため、自分の生きがいのため、いろいろな理由はあるにしろ、多くの人は働き続けるだろう。事情が許すなら長く働いて、その分人生の最終コーナーに受け取れる年金を増やすのは合理的だ。今回の改革は、それを後押しするものと理解したい。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム」