12月10日に日本大学当局は、ようやく記者会見を開き、加藤直人新理事長は田中英壽前理事長と永久に決別し「今後一切、彼が日本大学の業務に携わることを許さない」と発言、今回の背任事件の舞台となった関連会社「日本大学事業部」についても「清算も視野に対応する」と公にした。
同大は学部ごとに学風が違い、「複数の大学の集合体」のような印象の大学だ。たとえば、文理学部・芸術学部と経済学部・法学部では教授陣や学生の気質も違う印象がある。大学トップが学部教育にあまり口を出さず、それが魅力という人もいた。大学図書館蔵書冊数は5万冊で、私立大学ではトップクラスだ。半面、全学での意思決定には時間がかかり、経営トップの暴走を許すことにもつながったとの見方もある。
その根源は、日本大学全共闘結成の契機になった55年前の20億円を超える大学の使途不明金問題にある。3万を超える学生が全共闘に参加し、その大衆団交は大学トップたちを震撼させた。大学側はこの全共闘に対抗するため、体育会系運動部の学生を動員し、全共闘との激突を繰り返させた。
運動部の学生をカウンター勢力として利用したのは、日大が初めてではない。早稲田大学の学費値上げ反対闘争のときも体育会系学生が登場し、全学共闘会議にいた同好会系運動部員とやり合ったりしていた。
ただ、日大では、その後、闘争が一段落すると、大学側は体育会系の学生を職員として大量採用した。それを契機に、次第に経営面における体育会支配が進み、それが元学生横綱である田中前理事長のワンマンを許す土壌につながったといえよう。
今回の背任で逮捕された元理事もアメリカンフットボール部員で、田中前理事長の取り巻きにいる一人であった。彼が、例の日大アメフト部員の悪質な危険タックル事件で口封じ工作をして辞めたのに、時間をおいて復活したのは田中前理事長の支持があったからと言われる。
続く私大の不祥事から、私学法人の運営は学内の人間に任せられない、という世論に乗じて、文部科学省が設置した有識者会議「学校法人ガバナンス(統治)改革会議」は、私立学校法人の経営体制に関する大幅な制度改正を求める報告書をまとめ、12月はじめに末松信介文科相に提出した。
現在は学内の人も入っている評議員会のメンバーを「学外者」に限定し、予算・決算、合併や解散だけでなく、理事の選任・解任権を持たせるという内容だ。そのメンバーも学校法人の理事会で選ぶのを認めず、選定のための委員会を設け、人選や選考のプロセスを情報公開して「透明性」を確保するよう求めている。ガバナンスのために、かなり思い切った内容といえよう。
政府も閣議決定で「手厚い税制優遇を受ける学校法人にふさわしいガバナンスの抜本改革」について年内に結論を出し、法制化を促していた。
確かに抜本的な改革ではあるが、私大関係者からは猛然と反発が起きた。たとえば、法政大学の山口二郎教授は、ツイッターで「数本の虫歯で上下すべての歯を抜いてしまうようなもの」と批判している。特異な日大の例だけで私大全体を判断してよいのか、というわけだ。
日大とともに早大や慶応義塾大学など、全国の有名私大が加盟する日本私立大学連盟は、有識者会議の論議を踏まえて10月に公表した意見書で、下記の提案をした。連盟加盟校は、他にMARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)、関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)などだ。
1.学外者のみで構成される評議員会の本質的課題