がん家族の負担を重くする原因は、2つの矛盾した役割を担っているためだ。
1つは、がん家族が「第2の患者」と呼ばれるように、大切な人ががんと診断されたことでショックを受け、がん家族自身も治療が必要な患者的側面のポジションにあるということ。実際、多くの調査などで、がん家族の2~3割に強い不安や憂鬱状態が認められることが明らかになっている。
もう1つは、その一方で、がん家族は、患者を支えることが期待されている治療者的側面のポジションにもあるということだ。
このように、がん家族は、「第2の患者」という立場と患者を援助する立場の両方の側面を併せ持つだけに、患者のことを優先させて、自分のことは後回しにしがち。自分が辛くても「患者本人はもっと辛いのだから」と気持ちを抑え込んでしまう。
なかには、患者をサポートするため、寝る間も惜しんで看病に専念したり、「家族ががんで苦しんでいるのに、私だけ楽しむことなんてできない」と、これまで楽しんでいた趣味や娯楽をいっさい断ったりする人もいる。その状態が続けば、心身ともに疲弊してしまうのは当然だろう。
冒頭で、一生の間にがんに罹患する可能性は、男女とも2人に1人と述べた。しかし、もう少し詳しくみてみると、その確率は男性65.0%、女性50.2%と15%もの開きがある。
がんになりやすい「がん年齢」は、女性の方が30代後半からと男性よりも早いが、それでも、全体的には男性(夫)のほうががんになる可能性が高い。つまり「第2の患者」となるのは妻である。
近年、がん患者の家族を支えるための「家族外来(家族ケア外来)」を設けている病院も増えつつあるが、ある精神腫瘍科の医師によると「家族外来を訪れる人の約8割はがん患者の妻」だという。
妻は、家族や親戚への告知、医療費や生活費、住宅ローンや子どもの教育費などのやりくり、お見舞いや世話のための通院や自宅での看病、子育て、介護など、その合間を縫って、家計を支えるためにパートや仕事もこなす。かかる負担は計り知れない。
とりわけ、経済的な悩みや問題に関しては、かかる治療費に対する今後の見通しだけでなく、状態によっては、万が一、夫が亡くなった後のことも考えねばならない。とはいえ、がんと闘う夫の前で、死後のことなど言い出せない。その様子を察して、患者本人とは別の日に改めて相談を勧めると、ほっとした表情を浮かべるがん家族も少なくない。
がん患者の就労等に関する実態調査(※)によると、がん罹患後の収入の状況について、がんの罹患時に就労していた人のうち、罹患後にがん患者自身の収入が減った割合は49.4%。世帯全体で収入が減った割合は33.4%となっている。
つまり、患者本人だけでなく、それを支える家族の収入も減り、世帯全体の収入が減少する可能性があるということである。当然のことながら、「パート・アルバイト」や「派遣社員」など、有給などの福利厚生制度などが手薄な雇用形態で働く人のほうが、より影響は大きい。
がん家族の経済的な悩みが深刻なことは、同調査の家族のがんに罹患に関して医療機関から求める支援として、「経済的支援に関する情報提供」が最も多く43.3%であることからも伺える(図表参照)。
もちろん、妻ががんに罹患して悩み、苦しんでいる夫もいる。男性は女性に比べて、第三者に弱音を吐いたり、相談したりといったことが苦手な人が多いような気がするが、最近は、こういった夫から相談を受けることも増えてきた。
相談の内容は、経済的な悩みよりも、がん情報の取り方や治療法の考え方、抗がん剤治療の副作用に苦しむ妻への接し方、子どもへの伝え方など多岐にわたる。