とはいえ、公取委がここまで口を出したのは銀行のためではない。この報告書のタイトルは「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告」となっている。コード決済の利用者が自分のアカウントへ銀行からチャージする際のコスト、またコード決済された売上金を加盟店の銀行口座へ払い出す際の振込手数料など、コード決済事業者が負担する費用についても細々と調査をしている。
特に振込手数料がネックとなり、キャッシュレス加盟店への売上金の振込頻度を月1回や2回までに絞る現状がある。売上金がなかなか振り込まれないと店も困るが、事業者側も振込手数料のコストがバカにならないので対応しにくい。つまりは、振込手数料が高いのがキャッシュレス導入の妨げになっている、と暗に言っているようなものだ。
実際にキャッシュレス事業者からも、全銀システムの手数料にメスを入れてほしいとの声を聞いたことがある。国の肝いり政策の一つだったキャッシュレス推進のためには、現状の「3万円未満117円、3万円以上162円」にメスを入れる必要があった――と絵解きができるのだ。携帯電話料金にしろ、振込手数料にしろ、天の声はそれほど強いのか。
今回の手数料改定は銀行のためではないと書いたが、キャッシュレス化は彼らの敵というわけでもない。コード決済を利用するためのチャージ方法としては銀行口座、クレジットカード,ATM を利用した現金チャージ等があるが、先の報告書によれば、最も多く消費者が利用している方法は銀行口座だとある。デジタルネイティブな若者たちを未来の顧客としてつなぎとめるには、キャッシュレス事業者と平和的共存していく方が賢いだろう。
むろん、振込手数料が安い方が助かるが、我が身に置き換えると、家賃を払う以外に他行への振込を利用する機会は少ない。また、今時はコード決済アプリのアカウント間で送金し合えば手数料もかからないし、割り勘の支払いも小遣いも、銀行を介する必要なくお金のやり取りが済む時代になった。銀行が存在感を発揮するシーンは減っているようにも見える。
マイナス金利以降、稼ぐのが苦しくなったとばかりに銀行はATMや支店をどんどん減らし、手数料も一部値上げしてきた上に、メガバンクを中心に通帳の有料化や2年以上使われてない未利用口座への管理手数料も導入した。そして、今回の全銀システムの手数料引き下げで、銀行が負担するコストは軽くなるだろう。
そんなにあれこれコストカットしているのだから、ぜひ利用者に還元できるサービスに振り向けてほしいものだ。せめてコロナ禍で厳しい環境にある経営者や起業を目指す若者たちへの融資・サポートなど、銀行の本業分野で稼いでくれるように期待したい。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム」