中国、日本・台湾への軍事的挑発が活発化…米バイデン政権、超・対中強硬政策の中身

 通商問題を担当するUSTR代表に指名されているタイ氏はまだ議会で承認されていないが、両親が台湾人で、アメリカで生まれ、イェール大とハーバード法科大学院で学び、首都ワシントンの法律事務所や議会、政府でキャリアを重ねてきた超エリートといわれる。2007年から14年までUSTRの中国担当法律顧問を務め、中国の知財権侵害のほか、農産品への輸出補助金や輸出規制を世界貿易機関(WTO)協定違反として提訴したこともあり、やはり当然ながら米国重視であり、その意味では典型的な対中強硬派だ。

 国防政策担当のオースティン元中央軍司令官(退役陸軍大将)も22日、国防長官として議会で承認された。黒人の国防長官は米史上初めて。オースティン氏は同日、国防総省の全職員に向けた声明で「国防長官として、理にかなった政策と戦略を策定し、同盟・パートナー諸国との協力を重要視していく」と訴えた。

 同氏はこれに先立つ19日の指名承認公聴会に際して提出した書面証言で、中国とロシアが米国の「戦略的競争相手」であるとする18年の米国家防衛戦略の認識を確認した上で、「軍近代化の範囲や規模からみて、最重要懸案は中国だ」と明言しており、やはり対中強硬派、あるいは対中警戒派といってもよいだろう。

中国、「衝突」「対抗」重視

 特筆すべきは、オースティン氏が22日の就任直後に岸信夫防衛相と電話で会談したことだ。これは「バイデン政権の東アジア地域や日米同盟を重視する姿勢の表れ」との岸防衛相の指摘を額面通り受け取ることができる。また、オースティン氏は会談で、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることも改めて確認しており、「対中警戒、日本重視」の姿勢を示したことで、中国はトランプ政権同様、軍事的に米国との対立を深めることになろう。

 習近平国家主席は冒頭部分で触れた講演で、「中国は対話で意見の食い違いを埋める努力をする」「協議や連携を堅持し、衝突や対抗は求めない」などと述べて、米国との対話の重要性を強調したが、バイデン政権は習氏の発言についてまったく意に介していない。あるいは信用していないようだ。これは前述したように、バイデン政権は発足したばかりであり、当面の喫緊の課題は内政問題だからだが、それ以上に、習氏ら中国指導部は口先では「対話」「協調」を繰り返すが、実際の中国の行動は対話や協調とはほど遠い「衝突」と「対抗」でしかないからではないか。

「平和を求めている」と言いながらも、南シナ海の島嶼に軍事基地を建設して、米軍やアジア諸国の艦船の航行を監視、妨害する。台湾には二言目には「軍事的手段を放棄しない」などと恫喝し、実際に中国人民解放軍の戦闘機や爆撃機が台湾の防衛識別圏に侵入する。沖縄県尖閣諸島周辺海域にはほぼ毎日出没し、領海にも侵入するなど、言行不一致も甚だしい。

 習氏は「新冷戦は世界を分裂させる」と指摘するが、その張本人は中国自身であり、習氏こそ自身の発言を肝に銘じるべきであろう。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

●相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。