病床数が世界一多く、コロナ感染者が突出して少ない日本で「医療崩壊」が起きている理由

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「Getty Images」より

「いつの間にかGo Toが悪いことになってきちゃったんですけど、『移動では感染しない』という提言もいただいていた」

 12月11日、ニコニコ生放送に出演した菅義偉首相は、このような本音を吐露した。同じ時間帯に行われていた政府の新型コロナウイルス対策分科会で、「高止まり」や「拡大継続」している地域ではGo Toトラベルを一時停止するよう提言がまとめられ、これを受けて政府は13日、東京都と名古屋市を新たにGo Toトラベルの一時停止の対象とする方向で調整に入った。

 新型コロナウイルスの「第3波」襲来で日本全体が動揺するなか、「その原因はGo Toトラベルにある」との風潮が定着しているが、はたしてそうだろうか。

 人の移動の活発化が、新型コロナウイルスの感染の拡大をもたらすことは確かである。英国の科学チームは12月9日、「スコットランドとウェールズで夏以降に新型コロナウイルスの感染が拡大したのは、旅行によって国内外からウイルスが持ち込まれたためだ」と結論するレポートを公表したが、世界の感染者数は11月以降、各国政府の政策いかんにかかわらず、飛躍的に増加しており、「気候の変化」という要素も見逃せないのではないだろうか。新型コロナウイルスに限らず呼吸器感染症は、空気が乾燥する冬場に流行するからである。

キャパシティの拡大が喫緊の課題

 マスコミは連日、全国の感染者数や重症者数が最多を更新していることを報じているが、その数は依然として世界と比べればケタ違いに少ない。それなのに、なぜ日本の医療現場は崩壊の危機に直面しているのだろうか。

 その要因は日本における医療資源(病床数や医療スタッフ)の配分の不効率性にある(12月9日付日本経済新聞)。日本の人口1000人当たりの病床数は13床と主要7カ国(G7)で突出して多いのにもかかわらず、新型コロナウイルスのための確保予定病床数は、8月中旬の約2万7000からほとんど増えていない。重症者向けの確保予定病床数も約3600と横ばいのままである。

 日本の病院数は約8000とG7諸国のなかで最も多く、日本の1病床当たり医師数は、米国の5分の1であり、独仏の3分の1である。看護師も同じ傾向にある。欧米では人的に余裕のある大病院が状況に応じて機動的に対応しているが、日本では大病院の勤務医が恒常的に不足しているという問題がある。残業時間が長いなどの労働環境の悪さに加え、開業医に比べて収入が低いという事情が災いしているからである。

 日本では数少ない感染症指定病院の医療スタッフたちが、新型コロナとの終わりの見えない闘いで消耗しており、キャパシティの拡大は喫緊の課題であるが、感染症指定病院ではない普通の病院にとって、新型コロナ患者を受け入れることは大変ハードルが高いのが実情である。感染症専門医や訓練された医療スタッフが必要となり、院内感染対策などにも精通しなければならないからである。

 しかし手立てはある。コロナ感染を恐れて患者が来なくなり、余裕が生じている中小病院や診療所のスタッフを感染症指定病院に行って応援してもらう仕組みをつくることである。そうなれば人手不足がネックとなって増大できない病床数を大幅に拡大できることになる。

 その際に忘れてならないのは、診療所などの医療スタッフが協力する際の金銭的措置である。診療報酬が協力側の診療所などに入るようにするための枠組みは、診療所などが中心メンバーを占めている医師会が、現在存在する制度を応用して対処できるのではないだろうか。その際、政府の感染症対策に協力をしない診療所などに対しては、「経営が苦しくなっているから」という理由だけで財政支援を行うのを控えるべきであろう。