「そもそも国民の半分が外出したくないと言っているのに、なぜ観光地があれだけ賑わっているの? 国民がコロナが怖いなんていう報道は偽情報じゃないのか?」
そう疑ってしまうかもしれませんが、実は真実はそうではなくて、国民の半数はあいかわらずコロナを恐れて自粛生活を行っている一方で、国民の半数がコロナの新しい日常に慣れて大胆に活動を始めている。だから両極端の行動が起きて、その結果、世の中が元に戻ったかのごとくの錯覚が起きているのです。この状況は今年5月に私が予言した記事がそのまま現実になったものです。
さきほど紹介した世論調査でも、全体の46%がGo To トラベルを「利用したくない」と回答したといいましたが、なかでも70歳以上は62%が「利用したくない」、30%が「利用した、ないしはしたい」と言う回答で、外出拒否の傾向が強いことを示しています。一方で18~29歳の若者層は「利用したくない」が31%に対して「利用した、ないしはしたい」が68%。つまりおもしろいほど数字が逆転しているのです。
これは21世紀型の分断社会のリアルとでもいうべき現象です。まったく意見が正反対な人たちが世の中のそれぞれ半数を占めていて、それぞれの日常も、SNSなどのメディアを通じてみる世界もまったく異なっている。それが平均化されることで、どちらの立場から見ても「少しおかしい」と感じる平均的な世の中の姿が描かれるのです。
それに気づかないで、
「感染者数がついに1000人を超えたにもかかわらず、なぜGo To トラベルなどやるのか?」
と疑問に感じたり、逆に
「1泊2日の大阪旅行で一流ホテルに泊まっても交通費込みでツアー代金が実質1万6000円。この時期だから宿も航空券も安くとれる。普通に新幹線の切符を買ってホテルを取れば4~5万円なのに、なんでGo Toで旅行に行かないのか? 行かない人の気持ちがわからない」
とそのメリットを強く主張する人がいて、それぞれの主張が正反対なのです。
実際に起きている社会現象はその平均値です。つまりGo To トラベルで賑わう観光需要も、Go To イートでにぎわう飲食店需要も、どちらも半分はそもそも新型コロナの影響で需要がまったくなくなってしまったもので、残り半分はGo To キャンペーンという国策で人工的につくられた爆発的な需要だということです。そう考えると、今年の秋冬はGo Toのおかげで無事に年を越せそうな関係者も、来年2月からはまた需要が半減する寒い時期を覚悟すべきかもしれません。
話を分断社会に戻して、Go To キャンペーンの経済構造を考えてみます。国家予算約1.7兆円を投下して新型コロナで壊滅的な状況に陥っている観光業界や飲食業界、イベント業界を救おうという政策なのですが、国民ひとりあたり1万3500円程度の税金がその原資になっていることが、単純計算すればすぐにわかります。
たとえば同じ3人家族でも、80歳と75歳の夫婦が50歳の息子と同居している世帯では「とてもじゃないけどコロナの時期は外出したくない。それにしても合計4万円の税金をこんなことで使うのは怒りを感じる」ということになりますし、30歳と25歳と4歳の娘の3人家族なら、「年齢的にもコロナは大丈夫。仕事の収入ではこんなおいしい思いは二度とできないから毎月旅行と外食に行ってできるだけ元をとろう」と考えることになります。
その際に全体がバランス良く成立するためには、後者の家族がこのGo To キャンペーンの期間に8万円おいしい思いをしてはじめてマクロ政策で収支が合うことになります。なぜなら後者の家族に関しても一世帯あたり4万円相当の税金がかかっている計算だからです。