吉野家の牛丼は進化し続けていた…過去最大赤字でも攻めの改革、通販&宅配が大ヒット

マーケティングのプロを招く事例も

 外食チェーンの浮き沈みは激しい。かつて「勝ち組」だった「いきなり!ステーキ」と焼き鳥チェーン「鳥貴族」が失速した。一方、一時低調だった日本マクドナルドHD、吉野家HDは巻き返しに出た。

 日本マクドナルドHDの業績をV字回復させた立役者は足立光氏。マーケティングのプロを多数輩出させている米日用品大手プロクター&ギャンブル(P&G)ジャパンの出身。15年、日本マクドナルドHD上席執行役員マーケティング本部長に招かれ、「裏メニュー」や「ポケモンGO」とのコラボで同社を蘇らせた。「同じ仕事を3年以上続けてはいけない」という自らのポリシーを守って18年、退社している。

 吉野家HDは吉野家のテコ入れのため、伊東正明氏を外部から招聘した。伊東氏もP&G出身。18年10月、事業会社吉野家のマーケティング担当の常務に就任した。吉野家の長年の課題は客層が偏っていることだ。男性比率が高い。吉野家のように日常の食事を提供する飲食店が成長するには、客層を広げて、来店回数を増やすことに尽きる。

 19年3月からコア深掘りのメニューを導入した。「超特盛」(特盛よりも大きい最大サイズの牛丼)と「小盛」(並盛の4分の3サイズの牛丼)を同時に発売した。吉野家の客層を調べると年配の顧客が多い。年を取ったらたくさん食べないだろうと考え「小盛」を売り出し、「小盛」はよく売れた。

 5月には、ライザップとのコラボ商品「ライザップ牛サラダ」を発売した。コメを使わず、ブロッコリーや鶏もも肉で満腹感を得られるように商品を開発。「高たんぱく質、低糖質」がウリである。ライザップ牛サラダの販売数は20年2月までに200万食を超えた。

 牛丼の売り方を変えたことで、吉野家の既存店売上は19年3月以降、前年同月を上回り、劇的に改善した。20年2月期末の既存店の客数は2.0%増え、売上高は6.7%増えた。それでも当分、大幅な伸びは期待薄だ。次は、どんな商品をテコに、売り上げを回復させるのかが注目される。

(文=編集部)