昨年、第169回芥川賞候補になった前作『我が手の太陽』では、配管工事を請け負う中小企業で働く熟練の溶接工が主人公。それまでの作品でも工場設計を請け負う会社や、備蓄用タンク工事業者で働く人などを題材に、詳細な描写で“お仕事小説”を手掛けてきた。
そして今回、『ミスター・チームリーダー』の舞台に選んだのは大手リース会社。
なぜなら、「自分が施工管理の仕事をしているときに、総合レンタル業者さんってすごい! といつも思いながら仕事をしているんです。ありとあらゆるものを手配してくれるのはもちろんのこと、その機敏さ、柔軟さ、万能さを描きたいと思った」から。
そう、石田さんは今も会社勤めをしながら、小説の執筆を続けているのだ。
もともとはミステリー作家になるのが夢だった。
「サスペンスやミステリーが好きで、高村薫さんの作品をよく読んでいました。大学生のとき、時間があったので自分でも書いてみようかなと、スナイパーやスパイを主人公にした小説を書き始めたんです」
作品ができあがるとミステリーの新人賞に応募してみたが「全然ダメでした」。大学卒業後は一般企業に就職し、出勤前や休日に執筆。作品を仕上げては賞に応募したが、なかなか評価されなかった。
「それで、ちょっとやさぐれた気持ちで、ミステリーではない作品を書いてみたんです」
このときの作品が『その周囲、五十八センチ』。これは太ももにコンプレックスを持つ女性が脂肪吸引を繰り返す小説で、2020年の「大阪女性文芸賞」を受賞した。
「スナイパーやスパイじゃなく、普通の人の話を書いたほうが面白いって言ってもらえるんだ、と思って意外でした(笑)」
新たな気づきを得て、次は筋トレに励む女性会社員を主人公に書き始めた。この作品『我が友、スミス』が2021年に第45回すばる文学賞佳作となりデビュー。デビュー作ながら、第166回芥川賞候補作品にも選ばれ、注目を浴びた。
「小説の中では自分の好きな登場人物になりきれる」。そう話す石田さんが『ミスター・チームリーダー』の主人公として描いたのは「過度に真面目な人」。大手リース会社の係長として奮闘しつつ、プライベートではボディビル大会の出場を控え体重管理に余念がない男性、後藤だ。
「0.1キロとか0.2キロとか、体重がちょっと増減するだけで“キーッ”となっている、ある意味で乙女心のあるようなマッチョな男性を描いたら面白い、と思って」
後藤は仕事にもストイック。後藤の目には、同僚たちがどこかサボっていたり、自己管理ができていなかったり、不甲斐ない存在に映る。どうしてちゃんとやれないのだと、不満が辛辣な言葉や態度で相手に向かってしまうときもある。一方で、上司からは接待やトラブル対応などを命じられ、てんてこまい。
そんな上からも下からも振り回される中間管理職の難しさと、体重のコントロールだけはなんとしても死守しようとする必死さがユーモラスに絡み合っていく。
「普通に考えたら“いい職場”なんです。でも主人公があまりにも“きっちりさん”だから、すごいストイックさゆえにあれもこれも気になって……。その真面目すぎが迷惑がられて、職場で浮いているような人を書きたかった(笑)」