人間関係を支配する「3倍の法則」のすごさとは

山極壽一氏のバストショット
総合地球環境学研究所所長で霊長類学者の山極壽一氏は、人間の集団の規模を規定する「ダンバー数」や「ダンバー・グラフ」の重要性を指摘します(写真:今井康一)
友だちの数、生産性の高いチームのメンバー数、縦割り化する会社の社員数……。これらの人数は、進化心理学者のロビン・ダンバーが発見した「ダンバー数」や「ダンバー・グラフ」に支配されている。古来人類は、「家族」や「部族(トライブ)」を形作って暮らしてきたからだ。
メンバー同士が絆を深め、信頼し合い、帰属意識をもって協力し合う、創造的で生産性の高い組織を築くためには、このような人間の本能や行動様式にかんする科学的な知識が不可欠である。日本語版が2024年10月に刊行された『「組織と人数」の絶対法則』について、霊長類学者の山極壽一氏に話を聞いた。4回にわたってお届けする。
 

脳のサイズと維持できる集団のサイズ

「組織と人数」の絶対法則: 人間関係を支配する「ダンバー数」のすごい力
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『「組織と人数」の絶対法則』の共著者の1人であるロビン・ダンバー氏は、サルや類人猿の生態を観察しながら、生物経済学を研究してきた人で、1992年の論文で「ダンバー数」を発表しています。

「ダンバー数」以前は、脳のサイズは知性を表すということで、人間は言葉をしゃべり始めたことで脳を大きくしたのだと考えられていました。

しかし、近年の研究で、人類が現代人のような言葉をしゃべり始めたのは、7万~10万年くらい前だろうと言われるようになりました。一方、脳が大きくなり始めたのは、化石から推定すると200万年前です。その当時の人類は、まだ言葉をしゃべっていませんでした。

では、言葉をしゃべっていなかった頃の人類が、脳を大きくした理由は何だろう? そこで、サルや類人猿の脳の大きさと、それに相関するパラメーターを調べた結果、「維持できる集団のサイズ」だとわかったのです。

人類は、200万年前から集団のサイズを大きくする必要が生じたということになり、その相関係数から、現代人の約1400~1600ccの脳には「150人」がぴったり当てはまるということが発見された。これが「ダンバー数」と呼ばれるものです。

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200万年前に、脳が600ccを超えたホモ・ハビリス(ラテン語で「器用な人類」)が登場しました。

それまでのアウストラロピテクスと異なり、親指と他の指との対向性がある、非常に器用な手をしていました。それで、初めて「ホモ」という人間の名前がつけられたのです。

ダンバー氏は、そこに集団サイズを当てはめました。すると、脳が600ccを超えた頃の人類の集団サイズは、30人程度だということがわかりました。

脳の大きさと集団サイズは、並行的に対応して進化しており、50人、100人、150人という数字が導き出されます。

その後、ダンバー氏は、これらの人数を現代に当てはめていきます。『「組織と人数」の絶対法則』にも書かれていますが、軍隊の小隊や、宗教の布教集団のサイズなどがそれにあたります。

例えば、30人というと、僕は学校のクラスを思い浮かべます。毎日顔を合わせているから、顔と性格が一致していて、誰かが欠ければすぐにわかる。そのような規模の集団は、かろうじて分裂せずに、1つのまとまりを作ることができるのです。

人間は自然の趨勢に縛られている