アメリカ国民の多くは、インフレに嫌気がさして、トランプ氏を選択したのだが、その政策はインフレを誘導する皮肉な結果になりかねない。ちなみに、トランプ氏が強く主張している「移民制限」も、労働力不足を招き賃金上昇が予想されている。インフレ撃退を主張しつつ、その政策はすべてインフレに結びつくものと言っていい。
アメリカ以外の国にとっては、高い関税で大きな打撃を受け、加えてドル高が加速し輸入インフレを招く。日本も当然ながら、トランプ2ではドル高円安に苦しむ可能性が高い。円安は、株式市場などを押し上げるものの、輸入物価やガソリンなどの高騰に苦しむかもしれない。
トランプ2の第2のポイントは、選挙戦で繰り返し公約してきた戦争収束発言だ。ウクライナ戦争を24時間で解決すると約束し、「私が大統領であればロシアはウクライナに侵攻しなかった」が口癖になっている。実際に、前回のトランプ1で主要閣僚を務めたマイク・ポンペイ元国務長官に対して、彼がウクライナ支援の継続を主張しているという理由で、トランプ2への起用はないとSNSに投稿している。
加えて、今回の選挙で焦点になった争点の1つに、バイデン政権のイスラエル支援政策があるが、トランプ氏はもともとイスラエルに強い支持を示しており、現在起きている中東紛争も解決してみせると豪語している。とりわけ、イランに対してはより強硬な姿勢を貫いており、イスラエルとイランが戦闘状態になれば、派兵する可能性もある。
さらに、日本や韓国、NATO諸国に対して相応の防衛費を負担するべきだ、と主張し続けている。台湾に対してさえも、相応の負担を求めようとしている。仮に中国が台湾を侵攻するようなことがあっても、静観する可能性すら匂わせている。
実際のトランプ政権がどんな政策を展開してくるかは不透明だが、大統領に就任する前から停戦交渉に着手するのではないかと報道されている。問題はその中身だが、9月にヴァンス次期副大統領が、ウクライナが目指すNATOへの加入を認めず、現在の前線ラインに沿った地域を非武装地帯とする方向で和平案を提示している。
ウクライナに対して全面的な譲歩を求めるものであり、これをウクライナが受け入れるかどうかは疑問だが、トランプ氏は最近も「定期的にロシアのプーチン大統領と連絡を取り合っている」と指摘した書籍が発行され話題になった。選挙戦勝利に大きな貢献をしたイーロン・マスク氏も、プーチンと定期的に直接連絡を取り合っていると報道されている。
そもそも、トランプ氏とロシアの関係については、英国オックスフォード大学の「Computational Propaganda Project(コンピューターによる政治宣伝研究プロジェクト)」とソーシャルメディア分析企業の「グラフィカ」による共同研究の報告書がアメリカの上院で発表されたことがあり、その報告書にはロシアがソーシャルメディアを駆使して、1回目の選挙に介入したことは明白であると報告されている。詳細は、「トランプが大統領再選したときの『危険シナリオ』」の記事を参照していただきたい。
こうしたトランプ氏のロシア寄りの姿勢は、ヨーロッパに大きな脅威を与え、さらに経済的な負担も大きなものになるはずだ。欧州諸国も、ウクライナがトランプの提案に乗ってロシア有利の条件で終結してしまうと、次は自国が攻められるかも、という懸念が出てくる。各国とも防衛費増大に突き進まなければならなくなる。
第1次世界大戦時に、アメリカは当初、長期にわたって維持してきた孤立主義(モンロー主義)を貫き、欧州の戦争に一定の距離を置いてきたものの、最終的にはドイツの帝国主義に追い詰められて参戦することになった。トランプの掲げるアメリカ・ファーストは形を変えた孤立主義ともいえる。欧州諸国は、防衛費増大を迫られるうえに、アメリカ向け輸出に10%の関税を強いられれば、経済的にも苦しい立場に追い込まれる。孤立主義は、最終的にアメリカに増幅されて返ってくる。