実は伊藤忠、この領域でまったくの門外漢というわけでもない。1998年に「君の名は。」などで知られるアニメ会社、コミックス・ウェーブ・フィルムの前身となった企業を合弁で設立し、「仮面ライダー」や「サイボーグ009」で知られる石森プロのライツビジネスも担ってきた。
しかし、2000年代初頭に積極化した映画の製作委員会への出資については、映像を世界展開するというハードルの高さから、投資回収のリスクを鑑みて中断するなど、エンタメ・IPビジネスでスケールしきれなかった苦い過去を持つ。
それから時は流れ、2010年代後半には動画配信サービスの世界的な普及によって、エンタメ・IPビジネスに強力な追い風が吹き始めた。これを受けて、2020年4月にはVTuber企業のANYCOLORに出資するなど、伊藤忠でもIP事業が再加速する。
2021年、満を持して伊藤忠は現地企業などと合弁で、香港にアニメやキャラクターのライセンス代理店・Rights & Brands Asiaを設立(伊藤忠は38.5%出資)。中国市場における「ムーミン」の独占展開を開始し、小売りや飲食、観光業など100件程度の顧客を開拓した。
キャラクターコラボの定番である飲食店での限定メニュー開発から、ホテル客室内のアメニティなどをムーミンでジャックする企画、中国という地域性に沿わせたコラボ麻雀牌まで、その事例は多岐にわたる。現在はムーミンで数十億円規模の流通総額を誇り、2024年5月には上海支店を開設すると同時に、タイやシンガポールなど東南アジア10カ国での独占ライセンス権も加わった。
「おぱんちゅうさぎ」は、そんなムーミンに続く看板IPであり、同様にRights & Brands Asiaが展開を担う。伊藤忠の情報・金融カンパニーでこの事業を担当する稲留光・フロンティアビジネス第三課課長代行は「おぱんちゅうさぎの商品化権獲得を発表してから、海外展開している日本企業や現地企業からの問い合わせが殺到している」と明かす。2026年には、「おぱんちゅうさぎ」の流通総額を500億円まで引き上げる計画だ。
一方、約2割出資するスカパー・ピクチャーズは、製作委員会からの分配収入のみならず、アニメビジネスのドル箱である海外映像販売・商品化窓口などの獲得を念頭に運営。このスキームで臨んだ「チ。」は動画配信サービスの人気ランキングでも上位につけており、ほか3作品のアニメ製作着工も公表されている。
「伊藤忠はコンテンツビジネスにおいて、自分たちだけでやるとうまくいかなかった。もう一回やるならどういう座組がよいかずっと考えてきた中で、自分たちではできない(プロデュース面の)ことができるスカパーと一緒にやっていくのがよいと思った。すでに、日本のアニメを扱いたい海外の動画配信プラットフォームなどから、こちらも多くの問い合わせが入っている」(伊藤忠の稲留課長代行)
スカパー側で「グラゼニ」などのアニメ作品をプロデュースしてきた、スカパー・ピクチャーズの長内敦社長も「総合商社の海外ネットワークを強みにできれば、(アニメプロデュースの競合他社と)面白い競争ができるのではないか」と意気込む。実際、「チ。」の海外商品化ビジネスについても、Rights & Brands Asiaが支援に向けて検討を進めている。
スカパー・ピクチャーズは今後5年で約10作のアニメをプロデュースする算段で、こちらも2029年の流通総額500億円が目標だ。