「昔語り」より嫌われる上司の言動「ワースト1」

何より、指導する大義名分がこちらにあるので、ここぞとばかりに今までため込んだ思いが噴出し、「この際だから言っておこう」と、余計なことまで言及して、話が長くなりやすいのです。

反抗できない相手を懲らしめるのは、ある意味、快感です。快感に溺れていると言葉がどんどん荒っぽくなっていきます。そして、終わりの言葉を決めていないと、説教がどんどん長くなります。こうなってしまっては、パワハラとしてとらえられるのは仕方ないですね。

この事態を防ぐのに、2分間ルールが有効なのです。「指導内容を書き出して、PREPに落とし込んで2分間に収める」というプロセスを通じ、上司の方も事前に頭をクールダウンできます。認知バイアスに振り回された言動をしなくて済み、「相手が自発的に望ましい行動をする」という指導本来の目的を達成しやすくなり、パワハラで訴えられるリスクも減ります。

・指導される側のメリット
そもそも、指導を受ける人の集中力は短時間しか持続しません。受けたいと思っていないからです。そのうえ指導が終わる時間がわからないと、緊張の糸が切れやすく、途中から「上司は機嫌が悪くてただダラダラと怒っている。罰ゲームみたいなものだ」という感情がわいてくるものです。

これに対し、最初から「2分で終わる」と予告されていれば、受け入れ態勢ができます。それに「この指導は上司が準備を重ねて洗練させた2分間だ」と考えると、多少厳しい言葉を言われても素直に受け入れやすくなります。

・周囲の人たちのメリット
パワハラを見ている人たちは、自分がされているわけでなくても不快感からパフォーマンスが下がっていきます。多くの人は心の中で「パワハラを受けている人を助けてあげたい」と思っていても、実際に怒っている上司に「それはパワハラじゃないですか?」とその場で割って入るのは難しいものです。

でも2分間ルールがあれば、「2分過ぎましたよ」とタイムマネジメントの観点から割って入りやすくなります。

ゆっくり、はっきりとした口調で話す効果

以上から、2分間ルールは実施する価値があると考えられ、私のクライアント企業にも推奨しています。

逆に「問題が発覚した瞬間、感情をそのまま口に出した」場合、そのときの言葉は、あなたの本心ではなく、認知バイアスが作り出した、最悪の言葉である可能性があります。最悪な言葉は相手を傷つけ、あなたの人生をも転落させます。私は認知バイアス的言動で、全てを失った人をたくさん見てきました。この悲劇はもう繰り返してほしくありません。

私のアメリカ人の友人、T氏は、部下に指導するときは、いつもゆっくりとはっきりとした口調で話しています。それでも、2分で指導は完結します。

「そんなにゆっくり話していて大丈夫なの?」と聞いたところ、彼は「試行錯誤を重ね、このスピードが最も相手に伝わりやすいという結論になったんだ。ゆっくり話すことで、私は感情的になっていないという意思表示になり、相手の心の武装解除に繋がる」と答えました。彼のようにペースを変えて、相手に共感する姿勢を示す方法をペースナッジと呼びます。

このような姿勢はプロフェッショナリズムを感じさせます。「いいか、これが最後の機会だ! わかっているのか!」と大声で指導されるより、冷静に「これが最後の機会です。同じ過ちを繰り返さないようにしてください」と言われたほうが、行動を変えたいと思うものですよね。

「声を荒らげるのは年に3回まで」など決める

また、パワハラをした人の多くは「相手の言動を正す必要があるから指導した」と言います。でも、正すのに大声を出したり不快な思いをさせたりする必要はありません。だったら、大声を出さない、と自分で決めてしまうのはいかがでしょう?

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たとえば私は、他人を指導する場合でも、大声を出すことはあまりありません。その理由は「声を荒らげるのは年に3回まで」と決めて、それを周りに言っているからです(コミットメントナッジ)。

腹が立ったとしても、「ここで3回のうちの1回を使ってしまうのはもったいない。年末まで残しておくか」と自分のためにセーブしておきます。結果として、全く声を荒らげない年もあります。

人間なので腹を立てることは多々あります。でも、怒りの感情を行動に移すかどうかの選択権は、自分が持っています。

私は他人から厳しい言葉を言われるのが嫌です。そのため、私も他人のミスに対して厳しい言葉を使いません。すると、相手も私のミスに優しい言葉で接してくれるようになりました(返報性ナッジ)。
 
このように、行動経済学のナッジ理論を使えば、再現性のあるルールをつくって、組織を変えていくことができるのです。