「飲食業は、売上が不安になってくると、つい営業時間を延ばしてしまうんです」
こう語るのは、都内で飲食店を数店経営するティナズダイニング社長・林育夫さんです。
シェフである林さんはご自身も日々、お店に立ってきました。林さんは言います。
「ある飲食店の専門雑誌にも、成功事例として、『お店はお客さんが来るまでに開ける。帰るまで開け続けること』と書いてありました。僕は朝10時半から次の日の朝6時まで働く日が増えました。売上はわずかに増えても利益は少ないまま。50歳を過ぎて体力的には限界に達しようとしていました」
体力的にはもう限界。しかし当時の林さんはまだ、それ以外の世界があることを知りませんでした。
長時間労働について、先ほどのエスマート・鈴木さんはこうも言います。
「以前、仕事がつまらなかったころを振り返ると、そんな自分を正当化するために、年中無休で働いていた。そうすることでこんなに頑張っているんだから、と自分を正当化していたようにも思います」
そう、人は仕事が楽しくて長時間労働をすることもあれば、仕事がつまらなくて長時間労働をすることもあるのです。
よく言われる「共依存」というものがあります。特定の人物同士が依存し合っている状態を指す言葉で、たとえば、相手の収入に依存して働こうとしないパートナーに対して「自分がしっかりしなくてはダメだ」と思い込み、周囲のアドバイスも聞かずに関係を解消しようとしない例などがよく、共依存の例として挙げられます。依存されているほうも、「自分は依存されている」ということに依存している、ということです。
「売上の不安から長時間労働をしている人」というのは、仕事に依存している、あるいは「一生懸命働いている自分に依存している」という意味で、共依存の関係なのかもしれません。
だとしたら、本当に恐ろしいのは、その状態にいることになかなか気がつけないこと。しかし希望は今、自分はそうかもしれないと一度気づけば、そして、その必要はないことに気づきさえすれば、鈴木さんや林さんがそうだったように、目の前には「別の世界」が広がっていることにもまた、気づけることです。