コミックシーモア「売上高800億円超え」の衝撃度

コミックシーモアのトップ画面
140万冊以上の作品を展開するコミックシーモア。運営元はNTT西日本の100%子会社だ(画像:コミックシーモアのサイト画面より)

ヴェールに包まれた全容が明らかになった。

国内最大級の電子書店「コミックシーモア」を運営するNTTソルマーレは9月、電子書籍事業の売上高を初めて公表した。最新の2024年3月期は812億円に上り、部門として11期連続の増収増益を更新中という。コミックシーモアを柱とするNTTソルマーレの2024年3月期における最終利益も、過去最高の52億円に達した。

NTTソルマーレはこれまで、電子書籍事業の経営数値を開示してこなかった。朝日利彰社長は9月の事業戦略発表会で、「今後は透明性を高めて、業界の発展と自社の成長につなげていきたい」と語った。

コミックシーモアは漫画を軸に140万冊以上の作品を配信するサービスで、月間利用者数は4000万人を上回る。インプレス総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2024」によると、2023年度の国内の電子コミック市場規模は5647億円で、コミックシーモアのシェアは単純計算で14%程度となる。

同業のサービスでは、韓国のカカオ傘下のカカオピッコマが運営する「ピッコマ」が2023年の取引金額を1000億円超と公表しているが、国内勢ではコミックシーモアが最大手とみられる。

サービスローンチ当初の経験が糧に

NTT西日本の100%子会社であるNTTソルマーレ。同社が育て上げたコミックシーモアは、長い歴史の延長線上にあるサービスだ。

電話事業からの多角化を狙い、2002年に設立すると、2年後にiモード向けのコミック配信サービスを開始。サービスブランドの統一やスマホへのシフトを経て、現在の形にたどり着いた。

スマホの普及に伴い、2010年代半ばからは右肩上がりで成長。ただ、同業の電子書店から韓国系サービス、出版社の直営アプリまで競合がひしめき、需要の奪い合いも激しかった。

コミックシーモアが高いシェアで生き残れた要因の1つが、マーケティング施策だ。サービスローンチ当初、わずか20作品という取り扱いでも収益を立てるべく、社員が徹底的に作品を読み込み、その魅力の伝え方や最適な試し読み範囲の設定などを試行錯誤してきた。

この経験がベースとなり、近年では読者の属性や購入ジャンル、来店頻度などのデータを分析し、最適な作品を提示するマッチング機能も強化されている。

コンテンツ施策も抜かりない。2011年にオリジナル漫画の展開を始め、社内編集部から『家政夫のナギサさん』や『デブとラブと過ちと!』など、映像化に至ったヒット作を相次ぎ生み出し、差別化を図っている。

オリジナル作品と並んで重視するのが、2020年頃から開始した漫画出版社との協業作品だ。現在では20社程度と取り組みを進めているという。

例えば、KADOKAWAと協業して独占先行配信したヒット作『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』。同作品では、コミックシーモア側のプロモーションにおけるノウハウを共有し、より広告映えするキャラクターの表情などを提案した。

KADOKAWAデジタル事業局の芦尚文局長は、「広告宣伝という点では、出版社では追いきれない部分がある。ユーザーに近いコミックシーモアからのアドバイスは貴重だ」と評価する。

マッチング技術の精緻化がカギ

勢いに乗るNTTソルマーレは、アメリカ最大級の電子漫画配信サイト「MangaPlaza」を2022年にスタート。直近の四半期売上高は前年同期比で3倍超に成長している(実数は非公表)。「このペース(での成長)を続けたい。海外においても、業界最大級を目指しながら、漫画および漫画文化の普及拡大に大きな役割を果たしていきたい」(朝日社長)。

NTTソルマーレの朝日利影社長
9月の事業戦略発表会で、今後の拡大戦略を語ったNTTソルマーレの朝日利彰社長(写真:NTTソルマーレ)

持続的な成長のカギを握るのが、作品と読者とのマッチング精度の向上だ。コミックシーモアで配信する約140万冊のラインナップのうち、40万冊はここ2年で増加したものだという。

海外展開によって読者層も世界に広がっていけば、現在の属性分析などによる対応は難しくなる。朝日社長は「飽くなき追求で、より精緻なパーソナライズを実現していく」と意気込む。

コンテンツ面で意識するのはジャンルの開拓だ。足元では、近年の大トレンドである「異世界転生」の中でも「和風異世界」ジャンルを深耕するなどして、さらなる漫画ファンの拡大や1ユーザー当たりの売上高向上を図る。

NTTソルマーレは、電子書籍事業の次なるターゲットを「早期の売上高1000億円到達」に定める。破竹の勢いを保つには、マーケティング・コンテンツ両面での不断の進化が欠かせない。