テスラがパナソニック製の4680電池を広く採用すれば、他メーカーに先駆けて量産車に搭載された電池として、大きな実績になる。最大手のテスラにさらに食い込むことで、アメリカ市場の攻略を狙う。
最新の電池でアメリカ市場を攻める一方、国内でも生産能力の拡大にメドをつけた。既存の工場などからの供給も合わせると、パナソニックはSUBARU向けには年20ギガワット時、マツダ向けには年10ギガワット時を将来的に供給する。
アメリカ・ネバダ州にあるテスラ向けの工場(生産能力は年間約40ギガワット時)には及ばないものの、国内向けだけでEV約60万台分の電池に相当する規模になる。パナソニックにとっては国内事業がテスラ向けに次ぐ2本目の柱となる見通しだ。
国内自動車メーカーとの協業強化はパナソニックにとっても悲願だった。以前から課題と指摘されてきたテスラ一本足からの脱却を意味するからだ。
昨年度、アメリカのIRA(インフレ抑制法)に基づく補助金の対象外となったことなどからテスラの一部車種の販売が急減。パナソニックはこのモデル向けに電池を出荷していた大阪・住之江工場の生産を大幅に絞り込むこととなり、業績にも影響が出た。
こうしたテスラ依存リスクの顕在化を踏まえ、パナソニックには電池の供給先を多様化したいという思惑があった。特に余剰となった国内の生産能力を有効活用できる供給先探しが喫緊の課題だった。
一方、自動車メーカーとしても、EV向け電池の調達は大きな課題だった。自社開発の余力があるトヨタや、蓄電池大手のGSユアサを抱え込んだホンダと異なり、SUBARUやマツダには車載電池を自ら開発する余裕がなかったからだ。
経済安全保障や自動車産業保護の観点から電池事業への支援を強化している政府の思惑とも一致した。SUBARUとの新工場建設では、最大1564億円、マツダ向けの供給では最大283億円の補助金を受ける。
9日の式典で挨拶した経産省の野原輸・商務情報政策局長は「バッテリーを日本の基幹産業にしていくというビジョンを持って、官民で取り組みを進めたい」と、今後も政府として支援を続ける考えを明らかにした。
テスラ向けの新型電池発表、国内向けの新工場建設と矢継ぎ早に施策を繰り出すパナソニック。はたしてアメリカと日本の同時攻略は可能なのか。
中でも難しいとされるのが優先順位の問題だ。例えば最新の4680電池をめぐっては「テスラ以外の相手にも供給するとなれば、『なぜこちらを優先しないのか』と怒らせてしまう恐れがある」(電池業界関係者)。
しかし、SUBARUやマツダをないがしろにするわけにもいかない。只信社長はこの点について、両社にも「今後(4680電池を)供給する可能性はある」と含みを持たせつつ「当初は2170からスタートする」と語った。
複数の自動車メーカーへ供給し続ける限り、最新技術をどの順番で提供するかという問題はつきまとう。メーカーとの信頼関係にもつながる話題だけに、慎重な舵取りが必要だ。
EV業界全体の減速が指摘される中、アメリカ経済の減速や大統領選の行方など、不安要素も多い。社運をかけて進める車載電池事業の行方は、しばらく予断を許さない状況が続きそうだ。