これはファミリーコンピュータ向けのゲームソフトで、シューティングゲームと音楽ツールを融合させたものでした。プレイヤーはシューティングゲームを遊びながら、操作によって鳴る音で、あたかも楽器を演奏しているような体験をできます。1992年からはテレビ番組『ウゴウゴルーガ』のキャラクターデザインやCG制作を担当しました。
2006年、『いわいさんちへようこそ!』という本を出します。これは子どもといっしょにプライベートで作ったおもちゃを紹介するものでした。そして、その本を見た編集者から声をかけられ、『100かいだてのいえ』は生まれることになったのです。
もしこの絵本が100階建てじゃなかったら? もちろん、それはそれで面白いものになったでしょうが、多くの人は100階建てのほうがインパクトがあると感じるでしょう。
事例 さまざまな音楽ファンを1カ所に集める「フェス」
ひとつの場所に集めるインパクトを音楽ビジネスにおいて実践しているのが「フェス」です。
夏フェスとはフジロックフェスティバル、ライジングサンロックフェスティバル、ロック・イン・ジャパン・フェスティバル、サマーソニックなどの一連の音楽フェスティバルのことを指します。これらは「フェス」という愛称で呼ばれ、とりわけ夏に行われることから「夏フェス」とも呼ばれているのです。
フェスの特徴はミュージシャンの出演者数です。さまざまなバンドがおおよそ1時間ごとに出てきて演奏します。そのうえ、会場には複数のステージがあり、同時進行で多種多様なアーティストが出演します。観客は見たいミュージシャンごとにステージを移動しながら、長時間にわたって音楽を楽しむのです。来場者数は10万人を超えるものもあります。
通常の音楽ライブではステージはひとつです。また、出演者もワンマンでしたらひとつのバンドしか出ませんし、複数のアーティストが出るとしても限られています。共演するミュージシャンもジャンルやファン層など、ある程度のつながりがあるものです。
フェスが違うのは、ファン層がまったく被っていないであろうアーティストが次々と出てくるところです。つまり、フェスとはバラバラなミュージシャンと、バラバラなファンが1カ所に集まるイベントといえます。
たとえば2022年のフジロックフェスティバルは、出演ミュージシャンが100組を超えています。ということは、100組のファン層が会場に集うことになります。その相乗効果が現れるのは動員数だけではありません。観客以外にも「文化」として認知される影響力を持つのです。
フェスには2重のインパクトがあります。さまざまなアーティストが1カ所に集まるインパクトと、異なるファン層が1カ所に集まるインパクトです。これによって通常のライブイベントではなく、「フェス」という一大文化に発展しています。
フェスの起源は1969年に開催されたウッドストック・フェスティバルに遡ることができるでしょう。8月15日から17日の3日間にわたって行われ、ザ・フーやジミ・ヘンドリックス、スライ&ザ・ファミリー・ストーンなどのアーティストが出演しました。動員数はなんと40万人を超えたそうです。ロック音楽史上の歴史的なイベントとして記録に残っています。
日本における現代的なフェスの起源は1997年にはじまったフジロックフェスティバルだと言われています。7月26日から27日の2日間にわたり、31組のアーティストの出演が予定されていました。台風の影響によって2日目は中止となりましたが、以後毎年夏に開催することが恒例化しました。
その後、1999年にライジングサンロックフェスティバル、2000年にサマーソニックとロック・イン・ジャパン・フェスティバルがはじまります。現在のフェスは20世紀末にはじまり、21世紀になって定着した文化なのです。
もしフェスが行われず、それぞれのアーティストが各地の会場でライブをするだけだったらどうでしょうか。もちろん盛り上がったでしょうが、ひとつの文化としては認知されなかったでしょう。
「ひとつの場所に集める」ことは、大きな効果をもたらすのです。