「うつになりやすい思考」に陥らないように、普段から自分の言動を振り返るくせをつけたほうがいいのですが、テレビの視聴にもちょっとした注意が必要です。
一部には良質なドラマや教養番組もありますが、少なくともワイドショーは視聴者の不適応思考を助長し、不安を強くします。
ワイドショーでは事件や出来事をセンセーショナルに取り上げることが多くなりますし、意見を述べるコメンテーターたちの持ち時間は限られているため、議論が深められることはなく、単純で一方的な発言ばかりになりがちです。
たとえば、高齢ドライバーがアクセルとブレーキを踏み間違えて暴走事故を起こしたようなとき、ワイドショーでは一斉に「高齢者は免許を返納すべきだ」と責める論調になりますが、実際には高齢者の起こす事故がもっとも多いというのは間違いです。
たとえば、警察庁の「令和4年中の交通事故の発生状況」で免許保有者10万人当たりの交通事故件数を年齢別に見てみると、一番多いのは16~19歳の年齢層で1039件、次いで20~24歳が597件です。
一方、高齢者を見ると75~79歳で372件、80~84歳で423件、85歳以上で498件です。30~60代よりは増加しますが、もっとも事故を起こしているのは10~20代前半なのです。実際、10~20代前半の自動車保険料は他の年代の数倍も高くなっています。
しかも、高齢者の免許人口はこの10年間で約2倍に増えていますが、同時期に高齢の運転者が起こした死亡事故の件数はほぼ横ばいですから、高齢者による死亡事故は増えていないと言えます。
私は一件しか知りませんが、90歳を超えた高齢者が暴走して死亡事故を起こしたりすると、インパクトが強いだけにセンセーショナルに報道されて視聴者の記憶に残りやすくなり、何となく高齢になるほど事故が多いように感じるかもしれませんが、実際にはそうではないということです。
こうした事件は、過度の一般化(たった一つのことで、すべてを決めつける)や、レッテル貼り(特定の人をこんな人だと決めつける)、選択的抽出(ある一点だけにフォーカスする)、二分割思考(正しいか、正しくないかと二極化する)などによって、テレビ局の決めつけに沿って切り取るよう編集され、視聴者は無意識のうちにその内容が脳に刷り込まれてしまうのです。
近年の不倫バッシングもそうです。有名人の不倫が発覚した途端、当事者同士の個別の問題ではなくなり、人間性や人格までをも問うような大問題になってしまいます。
たとえば、それまでは俳優として評価されていたような人も、その長所はなかったことにされて、短所しか取り上げられなくなります。なかには「人間のクズ」と言わんばかりの扱いになる人もいますよね。
このように、テレビはちょっとでも悪いことをした人をまるごと人格否定して、「いい人/悪い人」の二元論的な価値観を視聴者に押し付けます。それこそボーッとテレビを見続けていたら、そうした押し付けによって思考力が低下し、前頭葉を劣化させて心身の老化を進行させてしまうのです。
特に、ワイドショーを見てコメンテーターたちの言うことに「そうだそうだ!」なんて言っている人は、うつになりやすい思考パターンを持っていると言えます。