「やる気をあてにしない」キーエンスが高収入な訳

逆に売上が良かったとしても、行動量が達成されていなければ、その理由は厳しく問われます。行動量が伴っていない売上はまぐれの可能性があるためです。ところで仕組みは実施する人たちだけが考えるものではありません。キーエンスでは本社側で仕組みを作ることが多いのです。実際、私も本社にいたときには、いわゆる評価項目を設計したり変更したりするといった仕組みづくりに従事していました。

そして常に仕組みが有効であるかどうかをチェックして、不要な仕組みは削除しますし、有効な仕組みはより広く浸透するように働きかけていました。またキーエンスでは優れた成果を出している人のやり方を横に展開する文化がありました。そのやり方が組織的に採用できると評価されれば、そのやり方を考案した人も評価されます。

そのために、商談が成立した場合は成功の要因をメールで部全体に公表することが習慣化されていました。このようにして、常に優れたやり方を組織で共有していたのです。企業によっては業績の良い人がそのやり方を真似されたくなくて自分だけで囲い込んでいる状況が多いかもしれません。

しかし優れた仕組みを考案した人が評価されたり、組織の業績がメンバーの評価につながったりする仕組み自体を持っているキーエンスでは、そのような心配はありませんでした。たとえ新人からでも、学ぶべきことがあれば先輩たちも素直に学ぶ風土があります。

仕組み化とは「マネジャーの仕事を軽くすること」

キーエンスでは仕組みを守ることについては信賞必罰という強い言い方ではないにせよ、評価は必ず行われます。つまり、仕組みを守って結果を出している人は評価されますし、仕組みを守らないことで結果が出せていない人はマイナス評価を下されます。

このシンプルなフィードバックをできていない企業が多いのではないでしょうか。ですから、仕組みを守らない人がいた場合は、マネジャーの指導が行き届いていないのか、あるいは守らない人が不真面目なのかを問う前に、そもそも仕組みを守ることがきちんと評価に紐づけられているかどうかを見直す必要があります。

ところで仕組みを作ることや守らせることが面倒だと考えている人もいるかもしれません。

しかしそれは間違いです。仕組みがなければ同じ人に何度も注意をしなければならなくなるかもしれませんし、メンバーが何人もいればその人数分の注意が必要になってしまいます。それでは組織を大きくすることができませんし、組織が自主的かつ自動的に回るようにもなりません。

つまり、仕組み化することを面倒くさがって怠ってしまうと、かえってマネジメント負荷が大きくなったり、組織の能動性が育たなくなったりするのです。その結果、組織であることの強みを出せない状態が続いてしまいます。

結局、仕組み化とはマネジャーの仕事を軽くすることです。そして現在ご自身がマネジャーとして伸び悩んでいたり、自信をなくしたりしているのであれば、仕組み化は急務です。

マネジャーの立場になった人の中には、自分にはマネジャーとしての能力やリーダーとしての器があるのだろうかと悩まれる人も多いでしょう。しかしそれはマネジャー自身が自らの属人性に依存しようとしていることが問題なのです。

マネジャーの仕事は仕組み化だとわかれば、人としての器だとかリーダーシップといった、曖昧な人間性だけに依存する必要がないことがわかります。もちろん、人として優れていることやリーダーシップはあるに越したことはありません。しかし、それらがないことで悩んだり落ち込んだりする前に、まずは仕組み化を行うべきです。

ですから、マネジャーが最も口にしてはいけないのが「とにかく頑張れ!」という言葉です。「頑張れ」だけなら誰にでも言えます。そもそも部下にしても「頑張れ」と言われても何をどう頑張ればいいのかわからないでしょう。