BBM設立から数年経った2017年は、動画配信サービスが出揃って、いよいよ大きく伸びていこうとした矢先。元々Googleから信頼を得ていたBBMは、TV Stickを託された。AmazonのFireTV同様、さまざまな動画サービスを載せることができる、Googleが開発したデバイスだ。
BBMはこれを自ら販売するのではなく、パートナーと呼ぶ事業者と契約し、その事業者に顧客へTV Stickを提供してもらう手法をとった。パートナーには大阪ガスやレオパレスがある。それぞれ顧客と濃い関係を築いており、例えばレオパレスは契約者にTV Stick付きのテレビが据え付けられた部屋を提供する。テレビと動画配信は「サービス」の位置付けだ。
大阪ガスは検針などで個別のユーザー宅を訪問する。その際に、「Netflixで韓流ドラマが楽しめますよ」とTV Stickを勧める。東京圏に比べて遅れていたNetflixの普及が大阪ガスとTV Stickにより一気に進み、Netflix側も喜んだという。
福崎社長はこのTV Stickを「お弁当の箱」と表現する。動画サービス以外でも、保険関係や医療系など、載せたいサービスをピックアップして提供できる。
「日本初のFAST」もこのTV Stickで展開する。既存の利用者がいて、その上にFASTが乗っかる形。だから2つ目の疑問、今から普及させられるかで言えば、すでに顧客を持つ状態なのでゼロスタートではないというのが答えだ。よくできていると思う。
展開するチャンネルは、8月20日の正式スタート時には10チャンネル。「時代劇チャンネル」はスカパーやケーブルテレビに時代劇を提供する日本映画放送が運営する。「キャンプチャンネル」は、名古屋テレビが制作する人気キャンプ番組「ハピキャン」を軸に運営。JTBが提供する旅チャンネルや、YouTuber事務所UUUMが運営するエンタメチャンネルもある。
チャンネルは番組の権利を持つCP(Contents Provider)がBBMにポンと渡すのではなく、CP側がチャンネルの運営も託されチャンネルキュレーターと呼ばれる。動画配信サービスができるとCP事業者たちが番組を売ろうと動くものだが、この「日本初FAST」は番組を購入してくれるわけではない。
パートナーがユーザーを増やし、チャンネルキュレーターが番組を流し、得られた広告収益をBBMも含めた3者でシェアするという、少々複雑だがユニークなビジネスモデルだ。パートナーとしては既存のレオパレスや大阪ガスのほかにも考えられる。
わかりやすいところではケーブルテレビ局が想定できる。契約者と直接つながっているのでTV Stickを勧めやすい。陰り始めた多チャンネルサービスに代わる商材になる可能性がある。TV StickにはFASTとは別に、医療サービスやECなどさまざまなサービスも搭載できるので、ケーブルテレビがユーザーに地域に根ざしたメニューを提供することも可能だ。
日本初のFASTはアメリカのFASTとはまた違う新しいサービスと言える。FASTと言っていいのかとも思うが、アメリカでもFASTの定義は曖昧になりつつあるので気にすることもなさそうだ。
ユニークなBBMのFASTだが、取材して懸念点も浮かんだ。