「いつも機嫌がいい人」組織にもたらす意外な効能

しかし、それではパフォーマンスの「質」が悪く、結果的に時間ばかりがかかり長時間労働になっていく。当時は、「心の状態」や「質」などといった概念とその価値がないので、そのストレスに耐えたり我慢することに多くのエネルギーを消費していたように思い出される。それに耐えられなければ仕事じゃないと、「質」の悪さを棚にあげ、根性や頑張るというやり方や、量で勝負しているのだ。仕事こそ、「機嫌がいい」状態でパフォーマンスの質を上げるべきなのに……。

人は大人になるほど「変化」を恐れるようになる

じつは、「機嫌がいい」は成長や変革への絶大的な必須条件なのだ。「機嫌がいい」は揺らがず囚われずの心の状態だが、一方で「機嫌が悪い」とは、何かに囚われている状態ということでもある。囚われの心の状態は、背景に「固定概念」が強くあることでもある。

「固定概念」とは、心理学で「セルフコンセプト」と呼称されており、この「セルフコンセプト」こそが、成長や変革の阻害因子なのだ。

「セルフコンセプト」をわかりやすく述べるなら、自分の中に過去の経験や周囲の影響でできあがっている「普通」とか「常識」だ。この自分の「普通」や「常識」が変革の妨げとなっていることは容易に想像できるだろう。

子どものころはどんどん成長するのはなぜなのか? ひと言でいえば、「機嫌がいい」生き方をしているからなのだ。「機嫌がいい」は心理学で表現するところのフローな状態(*自分らしいパフォーマンスがインプッ
トやアウトプットされているときの心の状態)で、子どもほど多いのだ。それは、まだ「常識」や自分の「普通」が形成されていないからにほかならない。

大人になるほどさまざまな経験にもとづき、自分の「固定概念」ができあがり、無理や難しいが増えて、変化を恐れるようになる。なぜ変化を大人になるほど恐れるようになるのか。自身の「固定概念」ができあがると、人はそこにいるほうが居心地がいいように感じる習性があるからだ。

過去と同じほうが安心、いつもと同じほうが安心、自分の常識の中にいたほうが不安が少ない、自分の普通通りのほうが明らかに居心地がいい、まわりと同じようにしていたい、それが人間なのだ。このような習性があるからこそ、「機嫌がいい」フローな状態を導くことが個人も組織も成長や変革につながることは自明の理といえる。

わたしが、この人間の習性を説明するためにいつも引用する事例がある。みなさんは目玉焼きには何をかけるだろうか? 塩? 醤油? ソース? マヨネーズ? 味噌? バルサミコ? ケチャップ? かけない? みなさん、それぞれだと思うが、いつも同じではないだろうか? 毎日、変えている人はほとんどいないはずだ。

わたしは醤油で、いつも醤油だ。妻がある朝、気をきかせて目玉焼きにケチャップをかけていると、わたしは「なんでケチャップなわけ? 醤油に決まっているでしょ!」と、食べることもせずに変化を拒絶する。わたしは目玉焼きにすら変革を起こさずに残りの人生をすごしてしまうのだ(笑)。恐ろしい。

きっと過去の何かの経験で醤油が美味しかったから、以来わたしの「普通」がたったそれだけでできあがって固定化されているのだ。気づけば、目玉焼きにはいつも同じ、醤油なのだ。こういったことがさまざまなことで自分を固定化して変革を阻害している。

変化の激しい時代、「機嫌がいい」人が生き残る

自分の「普通」や「常識」が過去のいい経験で起こるとすれば、ビジネスの世界ではこのことが無茶苦茶いろいろな場面で変革を邪魔していることになる。変革したくても組織の中に過去の成功事例をもって無意識に固定化されていることが少なくない。これまではこれでうまくいったから、前にこれで成功したから、という成功体験を会社の意思決定者ほどたくさん抱えている場合が多いのだ。