「マジメだけど仕事ができない人」に欠けた視点

「組み合わせ」を成功させるには、「携帯電話」のように、組み合わせやすい素材を探すことでしょう。ただし、見つかったとしても手放しで喜べるわけではありません。どんなものでもマッチングが成功するわけではないからです。

・ひげそり

・体温計

・スプーン

こういうアイテムを携帯電話とセットにしたところで、果たしてデジカメほど受け入れられるでしょうか。組み合わせるときには、同じ「本質」のもの同士でなくてはうまくいきません。ですから、ここで発揮しなければならないのは「抽象化する力」です。

「携帯電話」と、デジカメ、テレビ、IC レコーダーが組み合わせやすかったのは、“持ち運びたい情報機器”という共通の本質があったからです。
 そこに、持ち運ぶ必要のないアイテムを持ってきても、うまくマッチングさせることはできません。
 これは「異質なもの同士を組み合わせる」際の、重要なポイントです。

オススメの方法:メモがひらめきを呼ぶ

「材料」がなければ相性の良い組み合わせは見つけられません。そこで、おすすめしたいのが「メモ」をとること。日常生活の中で、面白いものを見つけたら、すかさずメモをとっておくのです。

メモに書いた情報は、繰り返し参照する必要はありません。そのまま放置しておけばいいのです。そうすれば、ワインのように、じっくり脳内で熟成された情報が、やがて偶然によって「組み合わせ」がひらめく瞬間に、記憶の底から浮かび上がってくるのです。

素晴らしい組み合わせを思いつくためにも、どんどんメモをとりましょう。

アップルコンピュータ(現アップル)の創始者スティーブ・ジョブズは、パソコンの世界で数々の伝説を残した人物です。世界で初めて商業的に成功したApple II をはじめ、iPhone、iPad など画期的な商品をいくつも世に送り出しました。

そんな彼が「異質なもの同士を組み合わせ」て、業界を驚かせた例をご紹介しましょう。話は、ジョブズの大学時代にまでさかのぼります。学位を取ることに疑問を持ったジョブズは、たった6カ月で大学を退学することを決意しました。

退学後も授業を受け続けたジョブズ

ところが、それからの行動が変わっています。学校をやめたのなら、普通は「勉強するなんて時間のムダだ。さっさと仕事を見つけよう」と考えるでしょう。ジョブズは違いました。

「卒業のために必須科目を受ける必要はなくなったのだ。だったら、面白そうな授業だけ受けよう」

ジョブズは、自主退学したにもかかわらず、“モグリの学生”として大学に残ります。そして、「カリグラフィ」の授業に興味を持つようになります。カリグラフィとは、専用のペンを使って、アルファベットをさまざまな書体で美しく書く技法で、日本語では「西洋書道」とも言われます。ジョブズは、このカリグラフィが将来何かの役に立つと期待していたわけではありません。単純に、面白いから受講していたのでした。

(画像:『ずるい考え方 ~ゼロから始まるラテラルシンキング入門~』より)

その後、ジョブズは個人用コンピュータの開発に打ち込みます。そして、Apple と名付けたコンピュータを売るために、1976年、スティーブ・ウォズニアック氏らとともにアップルコンピュータ社を創業しました。

1984年、ジョブズは、現在のコンピュータの原型となるパソコン「マッキントッシュ」をつくることになります。このとき彼が思い出したのが、かつて大学で学んだカリグラフィでした。

「パソコンでいろいろな書体が使えたら楽しいだろうな」

ジョブズは新しいコンピュータにそんな夢を託したのです。

当時、個人が使えるコンピュータで複数の書体が選べるようになったのは、非常に斬新なことでした。古くから存在するフォントと最新のコンピュータ。この通常なら結びつかない組み合わせは、ジョブズが興味本位で授業に出席したことから誕生しました。