TBS退職→Netflixと5年契約「50代P」選んだ道

制作する立場から地上波とNetflixのドラマを比較すると、Netflixの場合は世界190以上の国と地域で同時に視聴してもらえるチャンスがベースとしてあり、予算も大きく、労働環境の整備が進んでいることも実感したそうです。これもまた新たな道を選んだ理由と言えるもの。

視聴スタイルが多様化している現状にも思うことがあるという磯山さん。「1週間に1時間、決まった曜日に視聴者をテレビの前に連れてくることには、限界以上の限界を感じています」

放送当時、世間で大きな話題になり、賞レースで受賞も続くドラマ「不適切にもほどがある!」で再び身に染みた「地上波の醍醐味」があったからこそ、余計に思うことなのかもしれません。

不適切にもほどがある!
「不適切にもほどがある!」や「俺の家の話」など磯山さんが手掛けたドラマがNetflixの視聴可能リストに並んでいる(画像:Netflix公式サイトより)

「ふてほど」放送中にNetflix契約を決めていた

「1週間溜めて放送することで、視聴者の“期待&リリース”のような感覚を覚えたのが『不適切にもほどがある!』。なかなか味わえるものではありません。たまたま上手くいったからであって、『早く金曜日が来てほしい』なんて言われる作品はTBS全体でもそう多くはない。3カ月かけてちょっとずつ喜びを得ることができるのも地上波ドラマならでは。地上波でドラマがヒットするということはこういうことだったなと思いました」

「不適切にもほどがある!」を放送している段階で実はNetflixとフリーで契約する道を心に決めていたと言います。「自分にとって地上波で放送する最後の作品に相応しく、地上波でしかできないような企画でもありました。この作品で終われるなんて、これ以上のことはなかったです」

今回のNetflixとの契約は磯山さんにとって、悔いはない決断だったと言い切れるのはこれまでのキャリアパスの構築にも関係しています。ラインに乗る、いわゆる出世コースの道を自ら選ばなかったタイミングがありました。

「編成部にいた当時、そのままいくとドラマ部に戻ってライン部長になり、局長とか役員になる道の分かれ目があったんです。でも、私は出世するよりも現場が良かった。ドラマを作るたびに朝4時に起きて、私は何をやっているんだろうって思うときもありますが、楽しいからできる。それで、そのとき、希望を出してTBSグループで制作プロダクションを担うTBSスパークルに出向しました。待遇的には局長職でしたが、もうラインに乗っていませんでした。(TBSにいる)夫を見ていると選択肢はいろいろあったのかなって思ったりもしますが、今の道はその時点で作られたんだと思います」

磯山晶
ドラマプロデューサー歴28年の磯山さん。「このままTBSに居続けて1年に1本、あと数本しか作れない」と50代でキャリア転換を図った(画像:Netflix)

磯山さんは「こういう選択もあるっていうことを後人にもお知らせしたい」という思いも語っていました。

一方で、自身が手掛けたいドラマの方向性と配信の相性の良さも決め手になったと言えます。

「『木更津キャッツアイ』を2002年にTBSで放送したときに「(このドラマを)すごく好きな人だけが好きな空間で集まって観れたらいいのに」っておっしゃってくれた方がいて。この言葉に触発されて、映画にしたらヒットしたことがありました。ドラマには特性というものは確かにあって、自分が作るドラマは確かに配信に合うって思います」

TBSで2000年に放送された「池袋ウエストゲートパーク」がNetflixで2023年1月に配信されると、日本国内のNetflix 週間TOP10(シリーズ)で2週連続3位、3週目も4位にランクインするほど反響を呼んだことからも裏付けることができます。

「ふてほど」とは別のベクトルのSF設定

フリープロデューサーとなり、Netflixと5年契約を結んだ今、「たとえラブストーリーであっても、つい笑ってしまうような振れ幅が大きいドラマを作りたいと思っています。明るくできるものだったら、日本でもいろんな国の人にも通じるはず。挑戦したいです」と語る磯山さん。

第1作目は、TBSグループの海外戦略を担うTBSホールディングス100%子会社THE SEVENのプロデューサーとしてNetflixオリジナルドラマを制作する計画を明かしてくれました。宮藤官九郎脚本であることもわかっています。ドラマの具体的な内容は現段階では発表できないものの「ちょっとしたSFです」と話す磯山さんから、新天地で納得できるスタートが切れていることが伝わってきます。

「登場人物が極端な状況に置かれたほうが伝えたいことが伝わりやすいって思っています。『不適切にもほどがある!』とは別のベクトルのSF設定ですけどね。現代人の悩みとか生きづらさに寄り添ったものにしたいです」