邦画実写は、昨年上半期の劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(45.3億円)や『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』(27.1億円)のようなビッグタイトルのヒットがなかった一方、『変な家』(56億円)の大ヒットが生まれた。
「変な家」が画期的なのは、人気漫画の映画化でもなければ、ドラマの映画化でもないこと。YouTube動画で火が付き、その後ミステリー小説化した作品が、50億円を超える大ヒットを記録。上半期実写1位になったのだ。
客層が子どもにも広がっている点が、これまでのホラー映画とは異なるヒット規模になった要因の1つ。YouTubeで話題になり、SNSでの知名度が高いことや、後半のストーリー展開での意外なホラーテイストなどが「怖いけれども、おもしろい映画」として若い世代を引き付けた。
50億円という数字は、ホラーテイストの映画としては異例のヒットだ。家の間取りという題材や元ネタの出所、作品性などを総合的に含めて新規性があり、従来のジャパニーズホラーとは異なる、これからの時代の新たなヒットパターンの1つになった。
もう1つ邦画実写で着目したいのが、『九十歳。何がめでたい』『帰ってきた あぶない刑事』での“高齢者映画”のスマッシュヒット。前者は10億円手前、後者は15億円前後まで伸ばしそうだ。
『九十歳。何がめでたい』は、昨年100歳を迎えた原作者・佐藤愛子氏のエッセイを90歳の草笛光子の主演で映画化。90代の登場人物が、いまの生きづらい世の中を自らの視点から痛快に笑い飛ばすエンターテインメントが、超高齢化社会を迎えるなか、世間の関心に刺さった。
『帰ってきた あぶない刑事』もW主演の舘ひろしと柴田恭兵はともに70代。警察を定年退職し、探偵事務所を構える元刑事の探偵2人が、殺人事件や爆破テロに立ち向かう物語だ。浅野温子、仲村トオルらおなじみの顔ぶれのメインキャストも60歳前後。彼らの歳を重ねても変わらぬ活躍ぶりに胸を熱くしたファンは多いようだ。
映画ファンが高齢化していくなか、高齢層の視点から社会をフィーチャーしたり、エルダー層キャストが活躍したりする作品は、これからの注目カテゴリの1つになっていくかもしれない。
映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、邦画実写の上半期興行を振り返り、「テレビドラマを映画化する従来の定番が崩れてきており、かつてのようなヒットの確実性が弱まっている。いまは企画の段階で、YouTubeやTikTok、SNSなどである程度支持を得ている題材を探すようになっているが、『変な家』の大ヒットをきっかけに、その傾向がより強まるのは間違いない」と語る。
一方、今年冬公開の米倉涼子主演『劇場版ドクターX』や木村拓哉主演『グランメゾン・パリ』を例として挙げながら、世の中的な話題性の高い人気ドラマは、時代を経ても変わらぬ爆発的な興行力があることにも大高氏は言及した。
そして、映画のヒットを支える若い世代の生活の大部分を、SNSやネット利用が占めていることを踏まえ、大高氏は「テレビをはじめマスメディアに触れる若い人がどんどん減っているため、量産されてきたドラマの映画化や、漫画や小説原作のメディアミックスからの映画化という邦画実写の基盤の形が、これから大きく変わっていくかもしれない」と指摘する。
洋画の時流は今年も変わっていない。TOP10に『ウィッシュ』(36億円)と『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(23.7億円)の2作が入っているが、前者はディズニー100周年記念作であり、後者はいま旬の世界的スターが出演するハリウッド大作。ともに本来の期待値とはかけ離れた興行になった。