宝島社「身売り説」新潮社「危機説」迎える正念場

社内報に記された「秘策」

関川氏の喫緊の課題は、8月に締まる2024年度決算での3期連続赤字の回避だ。女性誌『steady.』の休刊などは発表済みだが、ハードルは高く見える。

だが、関川氏には秘策があった。同氏は社内報のコラムで経営状況についてこう記す。

「子会社TJホールディングスを通じての数十年にわたるアメリカでの投資は今や膨大な黒字を生んでいる。さらに加えて巨大な円安効果も!ちょっとやそっとでは揺らぐことのない、話題の西小結・大の里の押し出しにもびくともしない強固な経営土台ができている」。

TJホールディングスとはアメリカの完全子会社で、過去は映画製作などをやっていたが、近年は株やベンチャー投資で利益を出している。同社が宝島社に特別配当を実施することで、今期は「営業損益はぎりぎり黒字化、経常損益は大幅な黒字」(宝島社)となる見込みだ。

今期をなんとか切り抜け、今後は直営通販サイトの強化や新規事業を創出し、「付録ビジネス」依存からの脱却を図っていくという。カリスマ亡き後の、難しい舵取りが続く。

新潮社にも危機説

宝島社だけではない。新潮社も危機説が流れる1社だ。文庫本「新潮文庫」、週刊誌『週刊新潮』と、文芸とジャーナリズムを軸に、350人の従業員を擁し、東京・神楽坂に本社を置く老舗の総合出版社である。

近年の業績は低空飛行だ。2022年度の売上高は154億円。2017年度の売上高182億円から5年で約30億円下落した。利益も、複数の関係者によれば、近年は赤字が続く。

主な赤字部門は雑誌分野だ。旗艦誌『週刊新潮』の公称部数は、15年前は約70万部を誇ったが、5年前は40万部となり、現在は24万部に下がっている。自動車雑誌『ENGINE』など趣味分野でも苦戦が続く。

ローティーン向けのファッション誌『ニコラ』は、数年前までは業績を支える存在だったが、コロナを境に失速。公称部数ベースでコロナ前の3分の1に落ち込んだ。

紙の落ち込みをデジタルで補うのが近年の出版界の潮流だが、それも進んでいない。競合の文藝春秋など他の総合系出版社はデジタル有料会員購読(サブスク)に傾注する一方で、同社のネットメディアはサブスクを行っておらず、広告収入に左右される。

さらに同社では、取次会社への運賃協力金の支払いを難渋するような動きもある。こうした状況が重なり、出版流通界隈を中心に経営危機説が囁かれるようになった。

「神楽坂の大家」

もっとも財務的には、差し迫った状況ではない。同社自体は無借金経営を続けている。神楽坂界隈などで数多くの不動産を保有しており、その賃料収入を出版事業に充てているとみられる。

新潮社の倉庫をリノベーションした商業施設「la kagu」(写真:編集部撮影)

しかし、不動産事業は新潮社とは異なる「潮不動産」と称する別会社が担っており、資金の流れは社員にも知られていない。

グループ経営としては、出版事業を主に新潮社が、不動産事業を潮不動産が担い、両社をオーナー一族の佐藤家が束ねるという構造になっている。

むしろ、同社の深刻な課題は、従業員のモチベーション低下かもしれない。

新潮社の関係者は言う。「最近も『成瀬は天下を取りにいく』など文芸書でヒットを出している。『くらげバンチ』などWebマンガ事業も好調だ。頑張っている部門もあるのに、赤字を理由に会社業績対応賞与がここのところ少ないのはおかしい、と労働組合が経営者に文句をつけている」。

新聞・出版業界では同一会社下で不動産事業も併営するところが少なくない。その経営形態の差が、他社との待遇差につながるとしたら、会社を離れる人材が増えてもおかしくはない。

実際、同社関係者によると、最近は20~30代の働き盛りの離職が増えているという。一昨年は10人近くが、昨年も数人が会社を去った。そして、講談社やメルカリ、LINEヤフーなどの成長企業へと移り、活躍しているという。