怪しいカルトや陰謀論に取込まれる人「納得の訳」

これは「故意の盲目」と呼ばれる。多くの法的場面では、入手できる証拠に気づかなかったことは、詐欺を「見逃した」り、知らぬ間に犯罪に関与したりしていることの抗弁にはならない。

2010年にピュー研究所が行った調査では、アメリカ人の40%が「イエス・キリストは今後40年以内に再臨して地上に戻ってくる」と信じていた。

マジックを見破れない人の頭は悪くない

作家ダニエル・コーエンによると、「現代の天変地異説論者を、詐欺師だとかバカげているとか、頭がおかしいとけなすのは間違っている。そうした人たちは、普段は正直で、知的で、極めてまともだが、正しくない考えを信じ込んでいるだけなのである」。

つまり彼らは、同じ思い込みをしていない人にとっては意味をなさないとしても、「結論」そのものにこだわっているのだ。

すべての思い込みに、カルトの信念ほどの強さがあるわけではない。カルトとは、主流ではない宗教、陰謀説、カリスマ的なリーダーなど、社会の本流から大きく外れた価値観を共有していると思われる人々の集団である。

なかには私たちが思うよりずっと一時的で、思いのほか簡単に打ち勝てるものもある。それどころか、実験によって、思い込みはたちどころに変えられることがわかった。

2005年に科学学術雑誌『サイエンス』に掲載された論文で、ペター・ヨハンソン、ラーズ・ホール、スヴェルケル・シークストロームらの4人は、ある実験の結果を報告した。実験ではまず、120人の被験者に2人の人物の写真を見せ、魅力的だと思うほうを選ばせた。

次に、被験者に選んだ写真を手渡し、その理由を説明するよう求めた。被験者はなぜその人物が魅力的だと思ったかを説明した(「目が素敵だから」「茶色い髪が好みだから」など)。

何度かこれをくり返したあと、次はマジックのような早業を使い、被験者が選んだのではないほうの顔写真を与えて、選んだ理由の説明を求めた。すると驚いたことに、全体の4分の3の被験者は写真が差し替えられたことに気づかなかったばかりか、自分が選んでいなかったほうの人物がいかに魅力的かを、とうとうと語ったのである。

このような「選択盲」の研究は私たちが自分では「確固たる証拠にもとづいた、合理的で揺るぎない考え」だと思っているものが、いかに変わりやすいかをよく示している。

思い込みが強いほど意思決定をゆがめる

選択盲の実験では、思い込みや想定が移ろいやすいことを明らかにするために、マジックの早業に頼った。相手の想定をくつがえすことで生計を立てているマジシャンは、人間の思い込みの本質をよく知っている。

選択盲という現象が興味深いのは、それが、私たちが他人の考えには雄弁に異議を唱えるのに、自分の考えはほとんど疑問視しないことを如実に示しているからだ。

私たちの思い込みがもっとも危険をはらむのは、「思い込んでいると気づいていないとき」だ。そうした思い込みによって、意思決定力がゆがんでしまうことがある。

2022年2月24日、ロシアはウクライナに対して戦争をしかけた。それまでロシアは軍備を増強し、軍事演習を行い、侵攻を示唆する政治的措置を取っており、アメリカ政府は何カ月も前から侵攻が起きることを公然と予測していた。にもかかわらず、世界中の人々や政府は侵攻のニュースを知ると衝撃を覚えた。ロシアとウクライナでさえ、国民の大半はウラジーミル・プーチンがそのような命令を下すとは思っていなかった。

実際、2月24日以前には誰も避難しなかったが、侵攻後100日間で650万人が国外に避難した。起きている出来事を最初は誰も信じなかったという事実は、人々が無意識のうちに「ロシアは威嚇することはあっても実際に武力行使することはない」と思い込んでいたことを示している。

高い買い物、契約、投資に踏み切る前や、結論を出す前に、「自分はどう思っているか」と自問しよう。当てはまる思い込みを明らかにして、一時的な想定としてとらえ直すことが、自分の判断がもろい基盤の上にあるかどうかを適切に判断する、唯一の方法である。