ユーチューブやTikTokで人気漫画のタイトルを検索すると、パラパラ漫画のように自動で画像がスライドされる動画が大量に見つかる。
SNS上では、著作権侵害に対するユーザー側の意識の低さも目立つ。とくにこの1~2年で被害が深刻化しているTikTokでは、プロフィールに「シャドバン(編集注・利用規約に違反した場合などに行われる利用制限を指す)中なので投稿控えます」「運営に消されました」などと記載したアカウントに対し、「シャドバン直ったら投稿お願いします」「頑張ってください」と、まったく悪びれないコメントが付いていた。
出版社側が悪質な投稿に片っ端から削除要請をしたところで、すぐに別の違法動画が投稿され、アカウントが凍結されても虚偽の名前や住所でまた別のアカウントが作成されるなど、SNSでの取り締まりはまさに“いたちごっこ”だ。
再生回数が増えればレコメンドに表示されるケースもあり、業界関係者からは「(SNSを運営するプラットフォーマー側と)協力して対策したいが、動きが鈍い」と憤りの声が上がる。
実は同じ著作物でも、音楽については対策が進んでいる。
ユーチューブでは、独自の著作権管理システム「Content ID」によって、投稿動画に使われた楽曲を自動で検知する仕組みが採られている。
Content IDによって登録した楽曲が検知されると、その動画を視聴できないようにブロックしたり、動画の収益の一部を、著作権管理を行うJASRAC(日本音楽著作権協会)やNexToneなどを通じて音楽クリエーターや音楽出版社などの権利者へ分配したりすることができる。
実際、2022年6月までの1年間でユーチューブが世界の音楽業界に分配した60億ドルのうち、30%程度がContent IDによるユーザー投稿動画からの収益還元となっている。
一方で漫画などの出版物に関しては、今のところ自動検知に有効なツールがなく、収益が権利者に分配されることもない。
現状では、出版社側が漫画を掲載している動画を自力で探し出し、著作権侵害の有無を判別したうえで、1つひとつ削除を要請している。ある出版社はSNSや動画投稿サイトに対し、月2万件もの削除要請を行ったこともあったという。
こうした状況についてグーグル日本法人に今後の対応を問い合わせたところ、広報担当者は「YouTubeにとって著作権は非常に重要な問題であり、長年にわたりさまざまな対策をとっています」との回答にとどめた。
ユーチューブをはじめとしたSNSは多くの人にとって日常の一部と化しているだけに、そこでタダ読みが放置される影響は計り知れない。前出の中島弁護士は、「(著作権を侵害しているコンテンツを)軽い気持ちで見ることに慣れてしまうと、著作物に対価を支払うという価値観が崩壊する。そうなれば取り返しがつかない」と警鐘を鳴らす。
本来支払われるべき対価が得られなければ、漫画家が創作活動に打ち込める環境も崩壊しかねない。日本が世界に誇る漫画文化の未来を守るには、政府やプラットフォーマーを巻き込んだ総力戦が不可欠だ。