Metaと各国政府が繰り広げる大バトルの焦点

複数の国家が巨大なプラットフォーム企業と対峙するという構造ができつつあるのである。

穏やかなGoogle、闘うMeta

こうした動きに対しGoogleはこれまでのところ、各国メディアとの協議を進め対価を支払うという比較的穏やかな対応をしている。それに対してMetaは冒頭に紹介したオーストラリアでの支払い拒否の公表だけでなく、各国と「闘う姿勢」を鮮明にしている。

カナダの法制化に対しては、報道機関への支払いに合意したGoogleとは異なり、Metaは今も支払いを拒否するとともに、カナダ国内でのニュース配信を停止している。

例年、カナダは夏に山火事が頻発し大問題となる。2023年夏も記録的な山火事が起きた。ところが同じタイミングでFacebookがニュース配信をやめたことで、被災地の住民は火災の拡大や救助活動についての最新情報を得る手段の一つを失った。皮肉にもFacebookの空白を埋めたのが多くのフェイクニュースだった。

当然、Metaに対する批判は強まり、地方自治体の中にはMetaへの広告を停止するところも出てきている。カナダ政府はMetaとの交渉を根気強く続けているが、トルドー首相は「Metaはジャーナリズムに対する対価を支払わないまま、何十億ドルもの利益を上げている」などと厳しく批判している。

そもそもMetaやGoogleが展開するプラットフォームを基盤としたビジネスモデルは、多種多様なコンテンツで多くのユーザーをできるだけ長い時間、引き付け、広告収入を稼ぐ「アテンション・エコノミー」と呼ばれる手法の代表的なものだ。したがってニュースの提供は主たる目的ではなく、人々を集めるための手段のひとつでしかない。

プラットフォームが登場した初期には強い影響力を持っていた新聞やテレビはプラットフォームを過小評価し、ニュースコンテンツを流すことに対しては鷹揚に構えていた。

しかし、短期間で力関係は逆転してしまった。

広告収入を奪われつつ、購読者確保では依存

伝統メディアはプラットフォームを経由して購読者や視聴者を確保する比率が高まってきた。つまり、新聞やテレビなどの伝統メディアは、プラットフォームによって広告収入を奪われているのだが、同時に購読者獲得などの面ではプラットフォームへの依存度を高めているのだ。

問題はこのプラットフォームビジネスを成り立たせている「アテンション・エコノミー」がジャーナリズムや民主主義とはおよそ無縁の、利潤追求至上主義であることだ。

オーストラリアやカナダ政府を相手に支払い拒否をするMetaは「ニュースへのクエリ(データベースに対する処理要求)はわずか2~3%にすぎず、多くのユーザーの関心は友人や家族とのつながり、短編の動画やインフルエンサーのコンテンツである。Facebookにニュースはもう必要ない」と反論している。

Metaにとってニュースは主要な収入源になっていないばかりか、ニュースコンテンツを扱えば、各国の政府が介入して対価支払いを義務付ける法律などで規制をしてくる厄介者になっているのである。ならばニュースから撤退したほうが都合いいと考えるだろう。

しかし、現実はそれほど単純に切り分けられない。プラットフォームの普及とともにメディアの広告収入が激減し、その結果、メディア企業が雇用するジャーナリストが減り、記事が短くなり質も下がる。最後に休刊や撤退につながっている。

つまり伝統メディアはいつの間にかプラットフォームに経済的基盤を奪われてしまったのだ。

もちろんGoogleやMetaが各国でメディアに対しニュース使用の対価を支払ったからといって、新聞やテレビの経営が改善し問題がすべて解決するわけではない。