スペリーのこうした発見をきっかけに、右脳や左脳を鍛えるとうたう、さまざまなツールが生まれた。
例えば美術教育者のベティ・エドワーズは著書『脳の右側で描け』(河出書房新社)で、創造性を伸ばすためのデッサンのテクニックを伝授した。学習障害の専門家ケン・ギブソン博士は、左脳を鍛えて分析力を高めるためのテストやエクササイズを開発した。
自分が創造的な右脳型か、分析的な左脳型かを調べるのはとても楽しい。自分の「型」を知れば、どういう人と気が合うのか、どういう状況で仕事がはかどるのか、どういう仕事が向いているのか、といったことがわかるかもしれない。
だが最近の研究で、新しい知見が得られている。少なくとも思考に関していえば、左脳だけ、または右脳だけが働くということはありえないのだ。
スペリーのノーベル賞受賞以降、神経科学の研究は飛躍的進歩を遂げている。なかでも画期的な突破口を開いたのが、1990年代初めに物理学者の小川誠二が開発した、MRI(磁気共鳴画像法)を使って脳の活動を可視化する手法だ。
活動中の脳のMRI画像を見ると、脳は創造的な部位と分析的な部位に分かれてなどいないし、完全に創造的な精神的活動も完全に分析的な精神的活動もないことがわかる(下図)。
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例えば、数学の問題を解く、絵を描く、科学実験をする、歌をつくるといったとき、私たちはつねに脳の全体を使っている。右脳型、左脳型の思考などというものは存在しない。
神経科学者が2006年に行った研究で、大人と子どもの被験者に3種類の数学の問題を解かせ、その間の脳のMRI画像を分析した。すると被験者が問題を解いている間、脳の右半球と左半球の両方で、神経細胞がクリスマスツリーのように発火していた。
また、被験者は数学の問題を解いた方法を説明するとき、分析力だけでなく、創造力も同じくらい使っていた。問題解決においては、これらの能力を分けて考えることはできないのだ。
そうはいっても、ずば抜けて創造性が高いように見える人々はたしかに存在する。創造性をもたらしているのが右脳の違いではないとしたら、彼らの何が人と違うのだろう? ゴッホのように、鬱病にかかりやすい人は創造性が高いのだろうか? それとも人気俳優のトム・ハンクスのように、幸福な人が創造的なのか?
研究では、多様な分野の創造的な人々に共通する人格特性が、たった1つだけ特定されている。それは、好奇心が強いことだ。そして好奇心は、意識して身につけることができる。同じことが、創造的な活動をやり遂げるのに必要な、粘り強さについても言える。粘り強さも、意識的に育むことができる。
(翻訳:櫻井祐子)