1980年代後半には日本のアニメやマンガの暴力シーンの多さなどに対する批判的な見方がフランスで台頭。なかでも、その矛先が向けられたのは、同国のテレビ局TF1で1987年から1997年まで続いた「クラブ・ドロテ」という子ども向け番組だった。
番組のラインナップに、フランスにおける日本のアニメ・マンガブームの火付け役とされる「UFOロボグレンダイザー(仏では「ゴルドラック」というタイトルで放映された)や「ドラゴンボール」など日本の多くのアニメ作品が盛り込まれていたからだ。
2007年の大統領選の候補者にもなった社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル氏は、1989年に上梓した著書で「日本のアニメは善人や悪人などに関係なく、誰もが殴り合う」などと酷評。当時は「日本のアニメやマンガが(メインカルチャーでなく)サブカルチャーとみなされていた」(イナダ氏)。
しかし、今では「マンガ(manga)」という言葉がフランス語として広く浸透。以前は「日本のマンガは子ども向け」というイメージが強かったが、今ではファンの裾野が広がる。「40代以下は日本のマンガを読みながら育った世代」(イナダ氏)である。
マクロン大統領も若年層の有権者を意識してか、X(旧ツイッター)などでマンガ好きであることを折に触れてアピール。MANGAS.IOが扱う作品は現在、「全体の99%を日本のマンガが占めている」(レニエ氏)。
全国出版協会・出版科学研究所のまとめによれば、2022年の日本のコミック市場の規模は6770億円。電子コミックは4479億円で全体の66%あまりを占める。
一方、フランスでは依然として「紙」が電子マンガを圧倒。電子の売り上げ規模はわずか2%にすぎないという。コレクション目的で「紙」の日本マンガをどか買いする読者が多いからだ。
「フランスのBDにも日本のマンガの影響を受けた作品が多い」(アニメ制作会社のプロデューサー)。衰えを知らぬ日本のマンガ・アニメブーム。19世紀後半から20世紀前半にかけてクロード・モネやヴァン・ゴッホなど印象派の画家が浮世絵などに魅了され、団扇、扇子などのアイテムだけでなく技法まで自らの作品に取り入れるなどした「ジャポニスム」の熱狂を彷彿させる。