大谷選手の特徴は、ターゲット層以外にも男女幅広い階層から支持を得ていることだ。コーセーCMのコメント欄には「大谷選手の肌がきれい」というのもあった。
大谷選手を出演させ知名度アップを狙ったという企業のひとつ、顧客管理システム企業・セールスフォース・ジャパンの「次の世界へ。」シリーズを制作したクリエィティブ・ディレクターを務める電通の郡司音氏に、なぜ大谷選手を起用したか話を聞いてみた。
「大谷さんは(二刀流などで)象徴的なトレイルブレイザー、先駆者なんです。セールスフォースもデジタルの力でより良き社会にしようと、先駆者を目指している。大谷さんはスーパースターであると皆知っているので、あえて僕らと同じ一人の人間であるところにフォーカスしたいと思った。僕らと同じ悩みや、僕らと同じ葛藤を抱えながらきっと生きているだろうっていうのが、企画のスタートでした」
調べてみると、大谷さんの数々の失敗データが集まってきた。でも昨シーズンに10勝30本塁打を達成し、1シーズンでこれを記録した選手はメジャーリーグ初、日本のプロ野球界でもいないこともわかった。
「今若い人を含めてバランスがいいというか、失敗しない子がすごく多いなと思って。バランス重視の技術は上がったなと思うが、アニマルスピリットだったり、チャレンジする心だったり、そういうマインドが失われているんじゃないかという思いがあったので、失敗の数だけ成長できるんだよってメッセージを送ろう。それを大谷さんの姿に重ね合わせようと思いました」
野球選手のCMでは7月前期、ラーズ・ヌートバー選手が出演するインターメスティックの「Zoff」のCM好感度が、全作品2075作品中の2位にランクインした。CM中にヌートバー選手のお母さんが出ているほんわかしたCMだ。ヌートバー選手は森永製菓やZoffに加え、ほか2、3社からもCM出演のオファーがあったと報道された。
大谷選手やヌートバー選手を見ていると、個人的な印象だが気負いとか、日本を背負うとかいった力みが感じられない。最初から世界を目指していたからなのだろうか、リラックスした印象を受ける。
現役ではないが、イチロー選手もCM好感度ランキングで常に上位にいる。上半期はタレントランキング80位(2022年度は48位)につけた。
実は野球選手(OB含む)が出演するCMの放送回数は徐々に増えている。正確に言うと盛り返している。年間放送回数を合計すると、2001年から2009年にかけて年間2万回を超えることも多かったが、リーマンショックなどを機に急速に下がり2014年には5600回にまで落ち込んだ。その後徐々に増加。コロナ禍などで落ち込みをみせたが、2022年は1万3993回に回復した。
テレビCMは一昔前「あこがれ」を売る世界だったが、最近は親しみとか生活者のマインドを重視する傾向にある。野球選手を起用したCMでも「タフさ」を前面に出すよりも、消費者に幅広く愛される「タレント性」を狙っているケースが目立つ。
日本を代表するクリエーターの一人、前東北新社社長の中島信也氏は「最近ブランド構築に対する考え方が商品だけでなく、会社全体のイメージへと、企業側の考え方が変わってきた。世の中の変化、人々の心の変化が大きくなり、社会に愛されないと生き残れないんじゃないかという危機感は強くなった」と指摘する。
確かにCMに出演する野球選手は、社会に愛されるタレント性も必要なようだ。