一生懸命、力説をしたあと、相手から「言いたいことはなんとなくわかったけど、なんでそう考えたのか、その根拠になる事実を教えてほしい」と言われたことはないでしょうか。もしくは「何が起こっているのかはよくわかったけど、それで」と言われてしまうケースもよくあります。前者は意見が語られて、事実が伝えられていない状況、後者は、事実が伝えられて、意見がない状況です。
「事実と意見は、違う」。よく言われる言葉ですが、では、事実とは何で、意見は何なのでしょうか。事実と意見の違いを踏まえて、どのように伝えていけばよいのでしょうか。
ポイントは、事実と意見の違いをまず理解し、自分がどちらを話しているかをきちんと理解すること。そして、どちらかしか話せていないのであれば、両方を揃える努力をすることです。
読んでしまえば、当たり前のことと感じる人も少なくないでしょう。ただ、自分が話していることが何なのかを自分で意識しながら話すということは意外にできていないものです。最初は少し面倒かもしれませんが、慣れるとすぐにできるようになるので、ちょっと試しに次の問題に取り組んでみてください。
あなたは、昨日実施したセミナーについて上司に報告しなければなりません。次のAとB、どちらの報告がよいでしょうか。
AとBの違いをここでは「事実」と「意見」という視点で考えてみることにします。Aの内容は、「参加者は50名であった」という「事実」が語られています。事実は、誰が語っても同じ内容になるものです。
一方、Bの内容は、「参加者が多かった」ということが語られています。Aは、「50名」という誰が語っても同じ内容でしたが、Bは「多い」という、語り手の「意見」が話されていることになります。「50名が多い」のかどうかは、人によって変わる可能性があります。今、自分が話をしようとしている内容は、「事実」なのか「意見」なのかをまずきちんと分けて認識できるようにしましょう。
では次に、聞き手の立場から報告を受けた場合にどのように感じるかという視点で考えてみることにします。
Aの「昨日実施したセミナー、参加者は50名でした」と聞いた場合、過去のセミナーの実施状況を知っている人であれば、50名が多いのか少ないのか判断ができます。ただ、過去の様子などを知らない人にとっては、「50名」という数字をどう評価すればよいのかがわかりません。
Bの「昨日のセミナー、多くの方が参加してくれました」は、「多い」という語り手の評価が入っています。意味合いが伝わるため、聞き手はどう受け止めればよいのかがわかります。一方で、今度は逆に何をもって「多い」と言っているのかがよくわからないということになります。