「放送離れ」でTVer利用者が増えている驚きの現実

テレビで配信サービスを楽しむ人が増えているようです(写真:takeuchi masato/PIXTA)

5月11日、12日で在京キー局の2022年度決算が出揃った。そこから浮かび上がるのは、放送局が放送ではもうやっていけない厳しい現実だ。

キー局はすべて持株会社体制になっており、それぞれさまざまな企業を傘下にグループを構成しているため連結決算ではテレビ局の実体が見えにくい。

そこで私はいつも、グループの核であるテレビ局本体の数字に着目している。中でも「放送収入」として決算資料に示される数字が重要だ。CMの売り上げ、つまり放送事業そのものがわかるからだ。

テレビ局放送収入は減収

各局の単体売上高は日本テレビ2908億円(-3.3%)、テレビ朝日2239億円(-0.7%)、TBSテレビ2240億円(+3.1%)、テレビ東京1134億円(+2.3%)、フジテレビ2374億円(-0.4%)とさほど悪くはない。だが放送収入だけに絞ると軒並み減収で日本テレビは2317億円(-5.8%)、テレビ朝日1719億円(-4.0%)、TBSテレビ1628億円(-2.1%)、テレビ東京729億円(-5.1%)、フジテレビ1603億円(-6.6%)となった。放送局の本業は放送。それがすべて減収なのだ。

しかもこれは一時的なものではないと、おそらくキー局に限らず日本中のテレビ局が認識しているだろう。それはコロナ禍を挟んでこの4年間の数字を見れば浮き彫りになる。

(筆者作成)

5局の放送収入だけを取り出して合計すると、2019年度の8461億円が2020年度にはコロナ禍で急落し、2021年度に持ち直したものの2022年度は7999億円とコロナが落ち着いても元の水準からカクンと下がってしまったのがわかる。

それとゴールデンタイムのPUT(総個人視聴率)の推移を重ねると興味深い。2020年度は巣篭もりで視聴率が爆上がりしたが、人々がテレビをネットにつないでYouTubeやNetflixを見ることに目覚め、2021年度以降はダダ下がりした。この傾向は昨年上期決算で見受けられた傾向であることは当時記事にして伝えた。その傾向が結局年度の最後まで続いた。それどころか、視聴率はまだまだ下がり続けており、放送収入も取り戻せそうにない。コロナによる日本経済の混乱で乱高下した放送収入が、急落傾向で定着してしまった。

もう「若者のテレビ離れ」どころの話ではない。コロナが終わると「日本人のテレビ離れ」が決定してしまったのだ。

ただし正確に言うと、テレビ番組をまったく見なくなったわけではない。決まった時間にテレビをつけてチャンネルを合わせる習慣が失われているものの、テレビをTVerなど配信で見る人は多い。だから「テレビ離れ」ではなく「放送離れ」なのだ。

そのため今、TVerの利用がものすごい勢いで増えている。決算資料にもTVerを含む「配信広告収入」の数値を表記する局も出てきた。

(筆者作成)

テレビ放送に代わって増加したTVerの利用

ドラマ「silent」の人気が話題になったフジテレビは前年比73.8%増だった。「AVOD(広告付き動画配信)三冠王」という新しいタイトルをぶち上げ、その王座に輝いたことを自負している。この数年いい話があまりなかったフジとしては涙を流して喜びたい気分だろう。

TVerをはじめとする配信サービスはスマートフォンで多く見られるが、先述の通りコロナ禍を機にテレビをネットにつないでさまざまなサービスを楽しむ人が増えた。今後のテレビ局の成長を握るのが、このネットにつながったテレビ、CTV(Connected TV)での番組視聴だといわれる。