22年映画興収「100億超え4本」も喜べない複雑事情

近年言われ続けていることだが、邦画実写市場で大きなシェアを占める、テレビ局が製作委員会の主体となる大規模公開作のヒット規模は小さくなっている。今年は20億円を期待されていたものの10億円前後で止まる作品が多かった。

その要因のひとつには、コロナを経た配信VS映画館の構図がある。NetflixやAmazonプライムなど配信サービスのオリジナルを含めた多彩な映画やドラマの作品数と作品力に慣れたユーザーに対して、マス向けの平均点クラスの映画を作っても響かない。それこそ配信で見ればいいし、見なくてもいいとなる。「映画館に行きたい映画」へのハードルが上がっているのだ。

映画界の常識やヒット方程式は通用しない

しかし、見たい映画さえあれば観客は映画館に行くことは、100億円超え作品が4本生まれたことが物語っている。映画館での鑑賞を配信視聴とは異なる特別な体験やコト消費イベントとして楽しむことは浸透しており、そのニーズはコロナを経てむしろ高まっている。

だが、邦画実写はごく一部を除いて観客が見たい作品を提供できていないのだ。

映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「テレビ局映画などいまの邦画実写の大規模公開作は、テーマやストーリーの企画に限界がある。意外性のないアベレージ的な作品ばかりになって、新たな一歩を踏み出せていないから、観客が離れていく」とテレビメディアと同じような作品性になってしまう邦画実写映画の制作側の問題点を危惧する。

テレビドラマの映画化や、人気漫画を原作にして話題の俳優をキャスティングする“邦画のヒット方程式”や“映画界の常識”が通用しない時代になって久しい。

大高氏は「映画に目を向けさせることが、コロナ前より難しくなっているのは明らか。それにもかかわらず、これまでと同じような作品を作っていれば邦画実写は配信に負けてしまう。観客にひっかかる“なにか”のある作品を作っていくことを真剣に考えないといけない」と警鐘を鳴らす。

もうひとつの大きな課題は劇場側だ。大作が封切られると1作でシネコンのスクリーンを占拠してしまい、ほかの作品の上映機会が失われている。コロナ禍で危機的状況に陥った劇場側による2020年の緊急措置だった『鬼滅の刃』以降、それが一般化してしまった。

たしかに経済効率を求めるビジネスとして見れば理にかなっており、スクリーンを開けたぶんだけ実際に観客は入っている。

ただ、同時に本来のシネコンの特徴である多スクリーンで多種多様な作品を上映する機能は損なわれ、さまざまな作品を上映することで1人あたりの鑑賞本数を上げる映画界の最優先課題とは逆行する動きになる。

映画とは商業でありながら、多様性が求められる文化でもある。未来への映画文化の存続のために映画ファンを育てることが疎かになってはいけない。ひいてはそれがビジネスとしての繁栄にもつながる。コロナによって顕著になった映画界最大のジレンマと言えるだろう。

全体底上げの課題が浮き彫りに

コロナ明けに向かう時代の過渡期となる2022年、社会的ヒットを生み出すことで世の中をにぎわせた映画界は、配信シェアが拡大するなか、映画館というメディアと、映画興行というビジネスの社会的価値を示した。一方、大高氏は今年の興行から浮き彫りになった映画界の現状を下記のように指摘する。

「100億円超えが4本出たら立派だが、だからいい年だったとは限らない。本来それだけのヒット作があれば全体の興収がもっと上がっていないといけない。より重要なのは全体を底上げしていくことであり、そのためにはアニメ以外で中クラスのヒットを多く出さないといけなかった。10億円を超えた『死刑にいたる病』など少数例を除き、観客の流れを変える新しい作品があったか、観客の期待に応えた結果かと考えると疑問符が残る。今年の興行はそれを示している」

2023年は、年明け早々から好調な東映の70周年記念作『THE LEGEND & BUTTERFLY』が公開され、庵野秀明氏が監督・脚本を務める仮面ライダー生誕50周年企画作『シン・仮面ライダー』や、ディズニー100周年記念作『ウィッシュ』など期待作がならぶ。数字的に2022年を超えることに加えて、今年浮き彫りになった課題にどう向き合うかにも注目したい。

※記事中の興行中作品の興収は最終見込み