景気と流行は関係すると言われている。例えば、好況の際には暖色が流行り、不況期には寒色が流行ると言われている。ほかにも、好況時の「太眉」なども有名だ。不況期には人々が明るい話題を求めるため、お笑い番組が増えるという話もある。しかしこれは、製作費が安いためという経済合理性が背景にあるとの指摘もあるようだ。不況期には同じく製作費が安いクイズ番組も増えるという見方もあるので、因果関係はあるのだろう。
ほかにも、一定の経済的な裏付けがありそうな「景気と流行」の関係としては、結婚式のトレンドも有名である。1980年代後半のバブル期には「ハデ婚」が流行し、反対にバブル崩壊後の1990年代や2000年代には「ジミ婚」が流行した。その後、多様性や格差拡大が指摘される中、「ナシ婚」も市民権を得るようになった。
「景気と流行」と近い考え方として、過去に経験した経済環境が人々の経済行動に影響を与えるというものもある。日本銀行がよく持ち出すデフレマインドの定着もその1つである。インフレ予想には世代による違い(コーホート)があると言われる。諸説あるが、1980年代後半から1990年中ごろの不景気な時代に生まれ育った「さとり世代」はアニマルスピリッツ(起業家的な野心的意欲)に欠けているという指摘もある。
「さとり世代」という言葉は、2013年の新語・流行語大賞にノミネートされたのだが、同年は第2次安倍晋三政権によるアベノミクスが始まった年で、まだまだ世間的な認識としては株価や経済の不振の色合いが強かった。「この世代は生まれてからずっと日本経済が悪い」とされ、このことがアニマルスピリッツ欠如の背景とされた。
前置きが長くなったが、「さとり世代」と同様にコーホートによる違いとして、最近の大人気マンガ「チェンソーマン」を題材とした興味深い指摘が、10月26日の東京新聞夕刊「大波小波」(匿名のコラム)にあった。
「『チェンソーマン』が映し出す現実」というタイトルのコラムで、コラムの筆者によると、大人気マンガ「チェンソーマン」の主人公(デンジ)が「希望を最初から持ちえない」という描写になっており、「現代の若い世代の殺伐としたリアリティーを表現している」という。
ここで、「チェンソーマン」とは2018~2020年に「週刊少年ジャンプ」で連載されたマンガで(2022年7月からは「少年ジャンプ+」で第2部が連載されている)、2022年10月からアニメシリーズも始まった注目のマンガ・アニメである。「チェンソーマン」の主なストーリーは、「悪魔」を倒していくというものだが、それは別として、前述したコラムの筆者は、主人公のデンジ少年の境遇や考え方に注目している。
なお、筆者はアニメシリーズしかチェックしていないため、第4話までしか内容を把握していないが、ご了承いただきたい。
「チェンソーマン」は、チェンソーの悪魔を体に宿して「デビルハンター」となる主人公デンジ少年の物語である。主人公デンジの境遇や考え方は、「親の借金を背負わされ、小学校にも行けず、食べるものすらろくにない」「最貧困」「夢は、普通の生活」「努力・友情・勝利によって立身出世する、という希望を最初から持ちえない」「生まれたときから何もかもを奪われ、借金を返し続けるような人生」(いずれも「大波小波」からの抜粋)として描かれている。