やる気ない部下を嘆く上司のほうが実はダメな訳

「賽の河原」というあの世の苦行でも同じことが言われていますね。石を積み重ねて、積み重ねた側から鬼がやってきてその石を壊す、ということを何度も繰り返す。

このように、やる理由がわからずに意味がないと思うことを繰り返しやらないといけないときが精神的に一番つらいのです。

やっているうちにやる気が見えてくる場合もある

そもそもやる気は、やっているうちに見えてくる場合も多いです。

例えば、運動部に入った学生が、練習はまだしも、走り込みや筋トレのときにやる気にあふれているということはなかなかないように思います。ただ、それが成果に結びついていることが実感できれば、やる気が出てくるようになります。

だから、走り込みをしている人に対して「楽しいだろ!やる気を出せ!」と言っても意味がありません。必要なのは、その走り込みがいったい何につながっているのか、筋トレの意味を教えることではないでしょうか。

今は変化の激しい時代だと言われています。これまでの常識が通用せず、「こうすれば売れる」みたいな黄金ルートがあるわけでもありません。これからは「指示を待って」「教えてもらったとおりに」やる時代ではなく、もっと個々人が「どうやって仕事をするのか」を自分で考えていかなければならない時代だといえます。

そのときに重要なのは、「なぜやるのか」をしっかり考えるという姿勢です。もしかしたら、今皆さんの目から見て「やる気がない」と感じる人というのは、これからの時代に求められる人かもしれないのです。

だからテクニックとして、しっかりと仕事の背景を伝えることをしましょう。「このプリントを印刷して、担当者の机に置いておいて」という指示だけでは、「なんでこんな雑用をやらなきゃならないんだ」となってしまうのも当然です。

やる理由をセットで話す

それよりも、「部署の人間関係を把握するのと、こうした資料の準備の仕方を覚えてもらうためにこの仕事をやってもらうよ」ということをセットで話をするのです。

『部下のやる気はいらない 「一歩踏み出す」からはじめるコーチング』(日本能率協会マネジメントセンター)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

また、定期的に話をして、「今やっている業務に対する納得感=自分の将来のため、会社のこれからのためにつながっている感覚」を持てていないのなら、軌道修正できるようにコミュニケーションを取りましょう。

このような「やる気」ではなく「やる理由」にフォーカスして相手からやる気を引き出すことを、われわれはコーチングと呼んでいます。このようなコーチングこそが、これからの時代に多くのビジネスマンに求められる技術になっていくのではないでしょうか。

やる気がないことを責めて、精神論で解決しようとしてもうまくいきません。それは今の時代には即していないからです。これからの時代に合わせたコミュニケーションが今後増えていってほしい。そのためにぜひ「やる理由」を会話の主眼に置いてお話ししてもらえればと思います。