突然ですが、みなさんの中には「部下のやる気がなくて、全然使い物にならない!」とお悩みの方はいらっしゃいませんか。私は、ビジネスコーチングで社員の成長をお手伝いする会社を経営しており、いろんな経営者や社員と話をする機会があります。
その中で多くの人が悩んでいるのが、「部下のやる気がない」というものです。日本能率協会マネジメントセンターが「新人・若手社員の育成施策に関する調査」を行ったところ、新人・若手社員の課題として「成長意欲を持ち、必要な経験を自ら開拓する」の回答が61.5%に上り、最も票が集まっています。
「部下にやる気がないから、自分でやらなければならずに大変」
「部下が成長せず、部としての成績が悪い」
と。これと同じことは、多くの会社で起こっていることでしょう。部下やチームメンバーと一緒に何かをしようと思っているけれど、相手のモチベーションが低いために、物事がうまくいかないという経験がある人は多いのではないかと思います。
ですが、これには大きな勘違いが含まれていると思います。そもそも「やる気がないと人は動かない」という考え方が危険な可能性があるのです。
まず、みなさんのイメージで「やる気がある人」とはどんな人なのでしょうか。人間には「やる気スイッチ」のようなものがあって、それが押されていないと仕事をしない。そして、それを押すのが上司の仕事と考えている人も多いのではないでしょうか。
では、みなさんが自分たちのことを振り返ってみたときに、やる気に満ちあふれて毎日仕事をしていますか。最初から最後まで同じやる気を持って仕事に取り組んでいますか。そうですよね。別に、やる気に依存して仕事しているわけではないはずです。
ここでみなさんの誤解を解くためにいうと、必要なのは「やる気」ではないのです。人間は「やる理由」があればやるのです。
少しだけ、脳科学の話をさせてください。やる気というのは、脳の中で言うと「島皮質(とうひしつ)」というところが関係しています。これは、大雑把にいうと人間の「損得勘定」を司るところです。
「なかなかやる気が出ない」という人は、ここが働きすぎてしまっているケースが多いです。損得勘定が強いので、「なんでこれをやらなければならないんだ」という思いが先行してしまう。逆に何にでもやる気になれる人というのは損得勘定をそこまで実践しない人なので、「なんでやるのか」がなくても実行できてしまう、ということです。
要するに、やる気がないように見える部下は、「やる気がない」のではなく「やる理由がない」から行動しないのです。
「これをやることによって、会社として、または個人として、どんなメリットがあるのか」
それが明確になっていない状態で「そんなことを考えずにやれ!」というのは、実は大きな間違いなのです。
逆に「やる理由」がわからないことを続けることは、人間にとってはとても苦痛なことです。どんなに苦しい拷問よりも人間が一番精神的に追い詰められるのは、「穴を掘れ」と言われて自分で掘った穴を、今度は「埋めろ」と言われ、それを埋めたらまた「穴を掘れ」と言われて、穴を掘り……という作業を繰り返すことだと言われています。