もうひとつは「横並び意識」です。従来、多くの企業は同じ業界の他社と比較して、大差ない報酬を設定。「カネではない」と、報酬以外の魅力で人材の確保をめざし、離職についても報酬以外の魅力で防ぐ――。これが当たり前との認識があったのではないでしょうか。
しかし、それは会社側の勝手な言い分や好みでしかないかもしれません。多くの若手社員が、初任給が安いことに不満を抱いています。
10代~20代を対象にした組織DXのアンケートによると、いまの給与に不満があり、5万円程度あげてほしいとの不満をもっている人が最も多いとのこと。給与に不満を持っている人が合計80%以上おり、多くの人が給与アップを望んでいる、給与への満足度が低いことがわかります。
ところが大企業を中心に、多くの企業は若手社員の初任給がそもそも安いこと、その安い起点があるために長く安い給与で社員が働くことに不満をいだいていることを認識していない。ないしは、それほど大きな問題とは感じず、放置しているように思われます。
若手社員の離職者が多い企業に話を聞いたとき、その対策としてエンゲージメントの強化に力を入れていると話をしてくれました。そうした取り組みは重要ですが、その会社については初任給が同業比較で安いこと、その後の昇給も低い状況があり、「初任給のアップは考えていますか?」と質問したところ「それより先にやるべきことがある」「給与を上げはじめたらキリがない」と、否定的な意見が返ってきました。筆者が人材の業界で長年仕事をする中、同様の回答を聞く機会はよくあり、多くの会社に染みこんだ意識かもしれません。
そうした中、もし同業他社で初任給の大幅アップが行われたらどうなるでしょうか。横並び意識が高い日本企業の習性からすると、追随する企業が続々と増えてもおかしくありません。
筆者の元には最近、「初任給の大幅アップを考えている。その場合に全体の報酬体系をどのように見直したらいいのか?」という相談案件が増えています。このムードは今後、続くと筆者はみています。
もちろん、初任給のアップが若手社員の待遇への不満をすべて解消するかというと、そうはならない可能性もあります。起点となる初任給がアップしたとしても、その後の報酬が増えるとは限らないからです。
以前、筆者がベンチャー企業と大企業の給与カーブを分析したときの話です。最近は初任給が大企業より高いベンチャー企業が何社もありました。ただし、入社後の賃金は大企業だと一律で上昇を続け、40代では相応の報酬になるので生涯年収が高い。
一方のベンチャー企業は、入社2年目から厳しい査定で大きく差がつく。上がる人もいれば、上がらない人もざらにいる。人による差が大きく、生涯年収の額も明確になっていない――。初任給がたとえあがったとしても、その報酬がどのように推移していくのか、そこは社員の側も気をつけておくべきでしょう。
初任給の金額を上げる会社はおそらく、成果やスキルに応じたメリハリの利いた人事制度とセットにする会社が大半でしょう。20代から報酬で大きく差がつく時代、それへのきっかけが、今足下で見られる初任給の大幅アップなのかもしれません。
30代で「年収格差が2倍以上」になるような可能性もあります。そのくらいの転換であることを理解し、自分は高い報酬を得られるだけの働きができるように努力していくというマインドが必要になってきそうです。
高い報酬を得るためには、(会社が考える)昇給基準を理解することも重要です。
例えば、日常業務をこなすだけでなく、改善提案が必要とされれば、それに取り組み、成果を生み出す、といったことです。給与に不満を抱くだけでなく、必要な努力をすることで、この給与変革の動きを、自身にとってプラスのものとできるはずです。