「論理的な上司」の話が部下に響かない納得理由

コミュニケーションにおいて大切なのはロジックではなく……(写真:アン・デオール/PIXTA)
根拠をもって論理的に説明しているのに、相手が納得しないという経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。「コミュニケーションにおいては、ロジックよりも、まず相手の感情に寄り添うことが大事」と指摘するのは、JICA(国際協力機構)職員・元外交官として世界各国で300件超の人材育成・組織変革を行ってきた國武大紀氏。本稿では同氏の最新刊『その「ひと言」でチームが変わる 最高のフィードバック』より、チームメンバーとの信頼関係を築くためのコツを紹介します。

ロジックよりも「感情」を大事に

ビジネスの世界ではロジックが重要とされています。ロジックとは、ある結論に至るまでの理路整然とした思考の道筋(論理)のこと。ロジックから派生した「ロジカルシンキング」(論理的思考法)は、必須のビジネススキルとも言われており、仮説思考、三段論法、演繹法、帰納法、PDCAなどさまざまなビジネスシーンで活用されています。

ロジック(あるいはロジカルシンキング)がビジネスの世界で必要とされている理由は、主に2つです。

1つは、「課題解決のため」です。仕事をしていれば、ありとあらゆる場面で大なり小なりの問題が生じます。そのような場合、問題の原因は何かについて解決策を見つけ出していく必要があります。

たとえば、営業第一課の売上高が、営業第二課と比べて半分であった場合、営業手法に違いがあったのか? マンパワーの違いか? あるいはコントロールできない外部条件が発生したのか? など、原因を特定していきます。原因が特定できたら、具体的な解決策を検討することになりますが、原因分析や解決策の検討において、論理的に物事を考えるプロセスは極めて重要です。

もう1つの理由は「円滑なコミュニケーションのため」です。ビジネスシーンにおけるコミュニケーションでは、相手にわかりやすく伝えることが大切です。報連相やプレゼンなどの場面はまさにそうです。商談の場面であれば、論理的に説明することで、交渉を有利に進めることができます。ロジカルであれば、共通理解を得られやすいのです。

ロジックがビジネスの世界において重要であることに疑いの余地はありません。
一方、現実をよく観察してみると、人はロジックで動かないことが多々あります。たとえば、「〇〇だから、こうしたほうがよい」と論理的に正しいアドバイスを受けた場合、好きな上司と嫌いな上司とでは受け取り方がかなり異なるはずです。

好きな上司なら、素直にアドバイスを受け入れたくなりますが、嫌いな上司であれば、「なんでそんなこと言われなきゃならないの?」と反発したくなります。

お互いにアドバイスしている内容はまったく同じで論理的にも正しいのに、なぜこんなことが起こるのでしょうか?

「人は感情の生き物」

その理由は「人は感情の生き物」だからです。人は必ずしもロジックで動くわけではありません。突き詰めれば、人は感情で動きます。好きなことはやるし、嫌いなことはやらない。

「好きか嫌いか?」という、とてもシンプルな行動原理です。「好きか嫌いか?」というのは「価値観」です。人はさまざまな価値観を持っていて、価値観がフィルターとなり、さまざまな感情が起こります。

たとえば、「読書は大切」という価値観を持っている人は、本を見ると「読みたい!」という「快の感情」が発生し、本を購入するという「行動」を取ります。その結果、読書するという結果に至ります。「ある感情がある行動を引き起こす」というメカニズムですが、ある感情を引き起こすのは「価値観」というフィルターです。