いまの若者は、昭和の時代の成長神話をまったく持っていません。自分がのし上がってやるというような、新自由主義的なカルチャーもありません。
オンラインサロンなどに入っている貪欲な若者も一部にはいますが、やはり全体としては、みんなのために何かをしようという共同体主義のほうが多いと感じます。
『モンク思考』には、「人間関係」や「信頼」についての章がありますが、いまの社会を観察していると、若者のほうが他者への信頼度が強いと感じます。
たとえば、ジムでマシンを使おうとして、知らない人とかち合ったとします。すると、たいてい、若者は相手に譲りますが、年配者は我先にと使おうとするのです。エレベーターに乗ろうとした時も、ドアを開けて待っていてくれるのは若者が多いですよ。70、80代の人はさっさと閉めて行ってしまいます(笑)。
山岸俊男著『信頼の構造』によれば、日本の共同体における「信頼」は、本当に信頼しているのではなく、「裏切ったら指を詰めなければならない」というような感覚から、仕方なく信頼しているフリをする、ヤクザの集団のようなものだと論じられています。
しかし、本当の信頼というものは、そういった奴隷のような関係性で作るものではなく、共同体の外側にいる、知らない人のことを信頼できるかどうかという一般型の信頼であるはずです。
たとえば、アメリカのヒッチハイクなどは、知らない人を車に乗せられるかどうかですから、一般型の信頼がなければできませんよね。いまの日本の若者にはそういう信頼感があるようです。
これは、ヤクザの集団であった日本の農村型共同体が喪失したことに影響していると考えられます。戦後は村がなくなり、企業文化となりました。
そして、日本の会社は、失われた村社会を埋めるものでもあったわけです。ところが、2000年代になって派遣法が改正され、非正規雇用が増えて、終身雇用も崩壊しました。もはや、会社は共同体ではなくなったのです。