「会社が息苦しい」人が目指すべき新しい共同体

承認欲求を満たすために背伸びをするのはもう古い。今、承認欲求を満たす行為をやりすぎた結果の裏返しが起きている(写真:Fast&Slow/PIXTA)
私たちはつい、他人と年収を比べたり、社会的なイメージで就職先を選んだりしてしまいがちだ。しかし、あなたはほんとうはどのような人生を送りたいのだろうか? ほんとうはどのような人間になりたいのだろうか?
4000万人ものSNSフォロワーを誇る作家、ポッドキャスターのジェイ・シェティは、僧侶となるべく修行を重ねた経験をもとに、自分らしく生きるためのメソッドを紹介し、世界中から熱狂的な支持を得ている。
世界30カ国以上で刊行され、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー1位ともなり、8月に日本語版が刊行されたシェティの著書、『モンク思考』。
本書がなぜ世界的なベストセラーとなったのか、日本人にとってもなぜ必読の書なのか、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏の見解を、前編に引き続いてお届けする。

ムラ社会の崩壊が本物の信頼を生んだ

いまの若者は、昭和の時代の成長神話をまったく持っていません。自分がのし上がってやるというような、新自由主義的なカルチャーもありません。

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オンラインサロンなどに入っている貪欲な若者も一部にはいますが、やはり全体としては、みんなのために何かをしようという共同体主義のほうが多いと感じます。

『モンク思考』には、「人間関係」や「信頼」についての章がありますが、いまの社会を観察していると、若者のほうが他者への信頼度が強いと感じます。

たとえば、ジムでマシンを使おうとして、知らない人とかち合ったとします。すると、たいてい、若者は相手に譲りますが、年配者は我先にと使おうとするのです。エレベーターに乗ろうとした時も、ドアを開けて待っていてくれるのは若者が多いですよ。70、80代の人はさっさと閉めて行ってしまいます(笑)。

山岸俊男著『信頼の構造』によれば、日本の共同体における「信頼」は、本当に信頼しているのではなく、「裏切ったら指を詰めなければならない」というような感覚から、仕方なく信頼しているフリをする、ヤクザの集団のようなものだと論じられています。

しかし、本当の信頼というものは、そういった奴隷のような関係性で作るものではなく、共同体の外側にいる、知らない人のことを信頼できるかどうかという一般型の信頼であるはずです。

たとえば、アメリカのヒッチハイクなどは、知らない人を車に乗せられるかどうかですから、一般型の信頼がなければできませんよね。いまの日本の若者にはそういう信頼感があるようです。

佐々木 俊尚(ささき としなお)/ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数(写真:筆者提供)

これは、ヤクザの集団であった日本の農村型共同体が喪失したことに影響していると考えられます。戦後は村がなくなり、企業文化となりました。

そして、日本の会社は、失われた村社会を埋めるものでもあったわけです。ところが、2000年代になって派遣法が改正され、非正規雇用が増えて、終身雇用も崩壊しました。もはや、会社は共同体ではなくなったのです。