西野さんによれば、自分より弱い立場の子どもに暴力を振るうのは、子どもの性格が悪くなったわけではなく、小さいころからストレスをためこむ子が増えたからだと指摘しています。要因は早期教育。幼稚園や保育園のころから、学校に適応するための教育が盛んになり「手遅れにならないように」と習い事を掛け持ちするなど、余裕のない生活をする子が増えているそうです。
それだけが理由ではないと思いますが、「子どもたちの生きづらさはピークに達している」と西野さんは言います。30年以上にわたり、小学校教員を務めてきた先生も「子どもたちの生きづらさ」を指摘していました。チャイムが鳴る前に座らせることや、班ごとに決めたマナーやルールを守らせるなど「子どもたちに求める規範意識が年々、高くなってきていて、子どもがすごく生きづらそう」だと先生は語っていました。
高い規範意識を年少のころから求めた結果、子どもたちは表面上は「よい子」や「問題のない子」に見えるものの仲間内で暴力が横行してしまうのだそうです。
またコロナ禍でいじめが増えることも懸念されています。NPO法人「共育の杜」の調査によれば、コロナ禍の影響によって9割の教職員が「今後いじめが増える可能性が高い」と回答していました(※2)。
そもそも4月は大人の注意が必要な時期です。進学・進級により人間関係が刷新され、「問題がない」と見られていた子もいじめの標的になってしまうことがあります。
この時期に大人にお願いしたいことは、たったひとつです。今回の記事の前半で紹介した小学校5年生の男児は「子どもがやったからといって軽く扱わないでほしい」と話してくれました。
いじめが起きていても「子どもどうしで起きたことだからしかたがない」や「悪ふざけだから大げさにしなくてよい」と判断をするのはいじめを受けた本人であり、先生や親ではありません。苦しんだ人の年齢が幼少であっても「SOSを邪険にしないこと」は最も大切なことです。
もしもSOSを受けた場合、いじめを受けているとわかった場合は2つの対応をお願いします。
ひとつめは子ども本人が言った話を記録すること。学校や相談機関と話し合いの資料になるからです。
もうひとつは、子どもの安全を確保すること。いじめがある場合は躊躇せずに学校を休ませてください。学校を休めば「社会性や学力が身につかない」と不安視される方もいますが、いじめを受け続けて身につくのは学力や社会性ではありません。憎しみや自己否定感です。親に訴えても救ってくれなかったという不信感です。
私はたくさんのいじめ経験者に取材してきましたが、避難が早かった人ほど、心の回復は早い傾向がありました。子どもが苦しいときほど、安心・安全が最優先という原則をぜひ実行してもらいたいと思っています。