イノベーション企業が「ゆでガエル」になる理由

佐々木 俊尚(ささき としなお)/ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数(写真:筆者提供)

例えば、日本ではタニタが2017年から「社員を個人事業主にする」という取り組みを行っています。これにはいろんな見方があるでしょうが、個人としては、必ずしも会社に所属しなくても個人事業主として生きていく選択肢もありではないかという意見もあります。会社が強制的にそれをやるのは問題ですが、おそらく徐々にその方向に向かうでしょう。

すると、膨大な数の個人事業主の集合体と、適宜それを寄せ集めてプロジェクトを進める、ある種の企業体という業態になります。こうなると、どこからどこまでが企業なのかが難しいですよね。個人の生き方にもつながる問題です。

それこそセールスフォースのようなクラウドベースのソフトを駆使すれば、経理や総務なんかは外注できます。現に30人ぐらいの会社で総務は1人だけ、外部のクラウドを駆使すればそれで十分だという話もあります。

さらに、今は営業活動さえも外注できるようになりました。本体には経営戦略や技術、デザインなど本当にコアな人だけを残して、あとはすべて外注ということもありうるでしょう。日本も副業が推進され、リモートワークがこれだけ進んでくると、いずれこういった業態へと突き進むのではないかと思います。

そうなると、経営者は「いったい誰のために働くのか」ということを問い直さなければなりません。もちろん株主のためでもありますが、それでは社会に対してバリューを与えられなくなる問題が必ず起きる。金儲けのためなら何でも許されるという方向に走ってしまうと、いわゆる強欲資本主義に陥ってしまいます。

何のために成長するのか?

利益とバリューは相反する関係だとは言われますが、僕はGAFAを見ていると、いったいどこまで利益を増やせば気が済むのだろうかと思います。「何のために成長するのか」という根幹がわからなくなっているのではないか、と。

以前、堀江貴文さんと話して、なるほどな、と思ったことがあります。堀江さんは、ライブドアの社員が30人から100人ぐらいの規模の頃が、お互いに顔が見えるし、名前が一致するし、いちばん楽しかったと言っていました。実際、自然な動物としての人間にとって、いちばん適切な集団規模は150人以下と言われているのです。サル山のサルぐらいですね。

でも、じゃあなぜ当時のライブドアは、その規模を維持しなかったのか。答えは「維持できなかった」のです。会社を潰さないためには、成長し続けなければならなかった、と。確かにそうなんだろうなと思います。

しかし一方で、GAFAぐらいにまで巨大化してしまった企業において、それでも成長しなければならないと思う、その原動力はどこから来るのでしょうか。別に今の状態を定常状態として、会社を維持してもいいんじゃないか、と僕は思うのですが。

プラットフォーム・ビジネスには限界がある

この点については、個人的には、従来の経済学の限界も見えているのではないかと考えています。経済学は近代以降に生まれた学問ですから、「成長すること」が前提になっていて、その先の定常状態で、どういうエコノミクスがありうるのかということは考えられていません。