一方、アメリカ企業では、職務記述書(job description)で「経理課で連結決算係に所属し、グループ企業5社の売上高のデータ確認と仕訳を担当する」などと各社員の職務を詳細に定義し、職務の難易度に応じて賃金を支払います。そもそも中間管理職以下では、「評価」が存在しません。この職務記述書と職務給という組み合わせは、個人単位で仕事をするテレワーク・在宅勤務と相性抜群です。
アメリカ企業の教育は研修・セミナーなどを行う「Off-JT」が主体で、日本のOJTほどではないものの、テレワーク・在宅勤務とは相性がよくありません。ただ、そもそもアメリカではある業務の担当に欠員が生じたら、職務と能力要件を明確にして経験者を補充するという中途採用が主体なので、新人をゼロから育てる日本ほど社内での教育を重視していません。
日本の曖昧な働き方には、「チームワークや帰属意識が高まる」「リスクヘッジが容易」といったメリットがあります。アメリカの明確に役割分担する働き方にもいろいろなデメリットがあります。ですから、一般論としてどちらの働き方がいいとは断定できません。ただ、ことテレワーク・在宅勤務との相性という点では、断然日本が劣り、アメリカが勝っているのです。
つまり、日本企業がテレワーク・在宅勤務を本格的に取り入れようとすると、業務分担、評価・賃金、教育といったマネジメント・人事制度を大幅に見直す必要があるのです。
テレワーク・在宅勤務と関連してもう1つ、イノベーション(革新)をどう生み出すか、という課題があります。イノベーションの創造、例えば新商品開発というと、研究者が部屋にこもって1人じっと考え込む姿を想像するかもしれません。
しかし、これは効果的なやり方ではありません。経済学の巨人シュムペーターによると、イノベーションの本質は「新結合の遂行」、いろいろな知識・情報が混じり合うことです。違った知識・情報を持つ研究者が自由闊達に意見をぶつけ合う場を持つことが、イノベーションの創造には有効だと言われます。これは、近年のITのイノベーションがアメリカのシリコンバレー、インドのベンガルールといった産業集積で生まれていることからも明らかでしょう。
つまり、イノベーションの創造においては、独りぼっちでテレワーク・在宅勤務するよりも、会社に集まるほうが断然有利なわけです。もちろん、テレワーク・在宅勤務でもテレビ会議を使って議論をできるので、会社の中でしかイノベーションが生まれないということではありません。
いずれにせよ、今後、テレワーク・在宅勤務が普及したら、イノベーションをどう創造するかが、より重大な課題になります。
企業経営者に以上の話をすると、「テレワーク・在宅勤務はあくまで新型コロナウイルス対応の緊急措置。何でもかんでもアメリカに合わせて変える必要はない」「今は新型コロナウイルス対応に集中するとき。収束したその先を考えるのは不謹慎だ」など、賛同していただけるケースが多い一方、かなり感情的に反論されることもあります。
この問題をどう考えるかは、もちろん人それぞれ。ただ「変える必要はない」という結論を下す前に、以下2点を認識してほしいものです。
個人的には、日本企業が今回の悪夢を乗り越えるだけでなく、危機をバネにマネジメント・人事制度の改革を進め、より強い姿に生まれ変わることを期待します。