ホンダと日産という日本を代表する自動車会社の経営統合が大きな年末のニュースとなった日本。この経営統合の影の火付け役として語られているのが台湾の電子機器受託製造大手の鴻海(ホンハイ)である。かつてシャープの買収で大きく注目を集めた同社は、今回、再び日本の老舗中の老舗である日産を買収のターゲットに置いた。
台湾メディアの報道などを総合すると、ホンハイはルノーが保有する35%の日産株の取得に向けてルノーと交渉に入った。そのなかでは現在ホンハイに所属する元日産の関潤氏をフランスのルノー本社に派遣して交渉に当たらせ、ルノーの最高経営責任者(CEO)であるルカ・デメオ氏と会談も行っていたという。
もともと関氏は日産で33年の勤務経験があり、自動車産業には精通した人物。2023年からホンハイに加入して電気自動車(EV)の業務の責任者の一人となっていた。関氏の加入自体が日産との関係強化への野心実現の布石だったかもしれない。
ホンハイがいま全力をあげて次世代の主要事業として育てているのが電気自転車だ。日産の財務状況が厳しいとの情報を入手したホンハイは、今年初めからルノーと交渉しながら日産に資本参加を打診し、経済産業省や日産のメーンバンクであるみずほ銀行に説明を行うなど根回しを進めていたという。だが、ホンハイにとって予想外だったのが、自らの行動が日本の経産省や自動車産業を緊張させ、ホンダ側ももしホンハイが資本参加するなら日産との協力関係はなしとすると硬化したという。
現在はすでに日産・ホンダに三菱も加わった日本メーカー連合ができつつあるので、ホンハイ側は展開を静観の構えに転じ、ルノーも態度を留保中と思われるが、スマホやPCに続いて電気自動車の「委託製造」に焦点を当てて事業展開しているホンハイにとっては、技術力はあっても製造コストの削減や販売力に難を抱える日産とはウイン・ウインの組み合わせができると踏んでおり、日産・ホンダの組み合わせは事業が重複する部分も大きく、早晩困難に直面する可能性もあり、虎視眈々と今後の動きを見ている。
ただ、今回ホンハイが日産への資本参加を考えた背後には、日産株の安さがあることは大きい。ホンハイは毎年数千億円の利益を生み出し、手元の自由に動かせるキャッシュも1兆円を超える。買収となれば銀行の融資も期待できる。
日産の時価総額は2兆円ほどだとされるが、ルノー保有株を全部取得したとしても6000~7000億円の出費で済む。巨大工場の建設に1兆円を投じるホンハイにとっては、事業多角化のための合理性のある投資であり、高くはない買い物なのである。
日本企業や日本株、日本の土地さえも「お買い得」というのはすでに海外のファンドなどに狙い撃ちにされていることで誰もが気づいているが、アジアの企業にとっても段々と日本がターゲットになっていることを日本人に改めて実感させる意味が、このホンハイの買収の動きにはある。
台湾積体電路製造(TSMC)の日本進出とホンハイの買収騒動は簡単には並列で論じることはできないが、TSMCに1兆円以上の公的資金を投入してでも日本に進出してもらわなければならなかったこと、シャープ、東芝、日産という日本経済をかつては牽引したザ・日本企業という会社が台湾企業に「ちょっと買ってみようか」と思えるほどの相手になっていることは重く受け止めなければならないだろう。
かつて日本は台湾を支配し、戦後においても日本経済が台湾を含めてアジア経済を牽引したことは紛れもない事実だが、その時代がすでに過ぎだっただけではなく、逆にアジアの経済に支えられ、買われていくことは、日本人としては残念だが、現実としては受け入れざるを得ない。